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歓喜の聖杯戦争AAR 概要 俺が楽しい聖杯戦争を教えてやる――少佐 参戦環境 シナリオ 2014年、冬木 担当クラス 聖杯戦争における最高エンジョイクラスことライダー ルーラー あり エクストラクラス 不明 小聖杯の有無 不明 聖杯の汚染 不明 1日目18時37分 歓喜の設定確認 「少佐殿おはようございます!今日も一日ハイテンションでいきましょう!!」 「うるせえよもう夜の6時過ぎだろ馬鹿!!」 「まずは下のステータスをご覧ください。」 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 「なんだこれは……絶望的なスペックだなぁ。」 「続いて下のスキルと宝具をご覧ください。」 対魔力 A カリスマ A 軍略 A 破壊工作 A 吸血鬼 E 肥満 D 宝具 E 「なんだこれは……ピーキーな構成だなぁ……ちょっと待て。」 「どうしました?」 「教授《ドク》、私のクラスはライダーだな?」 「そのはずです。」 「騎乗スキルが見えないのは……誤植でしょうか……?」 「いや……マスターから聞き取りしたのをまとめたので多分抜けたのかと。」 「肥満がスキルになって騎乗がスキルにないとはおかしいだろぉ!?」 「そもそもご自分のマトリクスを把握していないのはなんでなんですかね……」 「俺もサーヴァントになって気付いたんだけど自分じゃ確認できないんだよ……どうりでセイバーもアヴァロン忘れてくるわけだ。」 「ええ……」 「ところでお前がここにいるってことは他のサーヴァントの監視はどうなるってるんだ?」 「そんなもの私に出きるわけないじゃないですか、理系ですよ?」 「あれ、陣地構築は?」 「キャスターのクラススキルもないのにそんなこと無理に決まっているでしょ。ホテルからくすねたトランシーバーに細工して観葉植物に突っ込んで終わりです。」 「ええ……」 「麻雀とかジェンガやってるだけだし平気平気。」 1日目18時39分 歓喜の状況確認 「では続いてこれまでの聖杯戦争の確認です。といっても私が本選で召喚されたのは昼だったのでこちらは少佐殿にお願いいたします。」 「まあ大体はお前喚んだ時に説明したから三行で纏めるぞ。」 一、本選始まって直ぐに魔弾の射手を冬木大橋に威力偵察出したら仮面ライダーに殺された 二、伊達男召喚して冬木大橋に偵察させたらサーヴァント見つけたりドラえもん見つけたりして最終的にカルナに殺された 三、准尉召喚してセイバー探したり伊達男の偵察引き継がせたりした 「こんなんだな。」 「まあ私が知ってるのと変わりありませんね。ところでこの仮面ライダーってあの黒いバーサーカーですかね?」 「それはわからん。あのアギトっぽいのと形は似てるが色が赤から紫に変わった。フォームチェンジできる平成ライダー多いからなあ。」 「なるほど、して、セイバーに言及していないようですが?」 「それがよぉ~准尉に衛宮邸とかの原作スポット聖地巡礼させたんだけどさぁ~どこにも居ないんだよ!」 「予選の時にリップバーンが一度凛と一緒に歩いているそれっぽい人を見かけただけですよ?予選落ちしたのでは?」 「教授、セイバーがいない聖杯戦争なんてあり得ない、わかるな。」 「しかしこの聖杯戦争はカニファン時空かもしれませんよ?」 「それもまた素敵だが、安心したまえ、手がかりはある。遠坂邸にバイクが止まっているのが見えた。多分騎乗スキル持ちのサーヴァントを凛ちゃんが引いたと思うんですけど。これでセイバーがサーヴァントじゃないってあり得ないでしょ。」 「原作マスターと原作サーヴァントの組み合わせで遠坂凛のサーヴァントがセイバーだと?」 「違うぅ?」 「その組み合わせだとメデューサの方があり得るんじゃ……」 「……」 「……」 「あ、それとワカメん家にもなんか人の出入りがありそうだって准尉が言ってた。」 「これは桜がエミヤ引いてるパターンですねぇ!頑張っていきましょう!!」 「おっぱい星人め。」 1日目18時42分 歓喜の外交確認 「教授、そろそろ腹へったから巻いていくぞ。今日だけ7時から上のレストランでレバノン料理が食えるらしい。」 「ご安心を、これで最後です。というわけでこのリストをご覧ください。」 マイケル アーチャー 高遠いおり ランサー 日野茜 ランサー 色丞狂介 キャスター 九重 アサシン 美遊 バーサーカー のび太 アーチャー(まほろ) 他三組 「これもうどこからツッコめばいいかわからんな。教授。」 「こちら現在我々と非敵対的な参加者の一覧となっております。野良サーヴァントや、野良マスター、それに間接的に関係のある主従も加えておきました。」 「どう見ても七騎で収まってないどころかクラスもかぶってるんだが、これあれか?佐々木小次郎とハサンみたいなもんか?それとも月の聖杯戦争だからか?」 「たぶんextraにならって128騎いるのかと。」 「トーナメント式だったら確実に一回戦負けだったな、俺ら。」 真田幸村、色丞狂介、パピヨン、美遊、アギト、のび太、まほろさん 「え、まだやんの。」 「真名が分かってるサーヴァントだけでも扱い方を説明しておこうと思いまして。」 「しょーがねーなあ。ところで私は今回の聖杯戦争はヘルシング in Fateだと思ってたんだが。」 のび太 の び 太 の び 太 「のび太いるよな?」 「居ますね。」 「あれのび太だよな?」 「私も実物見たのは初めてなんでちょっと自信ないですけどのび太ですよあれは。」 「……え、ヤバくない?アーカード殺して大団円迎えたからお祭り企画に招かれたと思ったけど違うのこれ。」 「コロコロと型月のコラボですかね。」 「ないだろ。おまけにのび太のサーヴァントドラえもんだったぞ。」 「マジなのですか?」 「マジなのですよ?まほろさんじゃないほうのアーチャーが殺したらしいけど。ひみつ道具使いたかったぁ!」 「わざわざ爆破予告なんてする必要もありませんでしたしね。」 「セカンドオーナーなんだから凛ちゃん動くと思ったんだがなあ。歪曲が過ぎたか。」 真っ赤な誓いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! 「なんだこの爆音!?」 「あ、それ俺のアラーム。てことはもう7時十五分前か。よし飯行くぞこのままでは餓死する。」 「え、でも、まだ、同盟相手の情報を纏めていませんし……まだのび太についてしか話してませんし……」 「分かる?デブは一食抜いたら死ぬっていってんの!ね!?」 「でも最後の大隊《ミレニアム》召喚した時に一人一人に説明するの面倒だから『聖杯戦争のしおり作ろう』って言ったの大隊指揮官殿ですし……それに爆破予告のあったホテルでレストランなんて営業しますかね……」 1召喚=1000説明 「なんだよお前ノリ悪いなあオイ。マジ萎えるわー。そんなんだから死にかけのウォルターに殺されるんだよ。」 「なんてことを!」 「だいたい最後の大隊初日から喚ばねえよルーラーの情報もないのに!討伐令来るのわかりきってんだろ!」 「わかんないじゃないですか案外ガバガバかもしれませんよ!?」 「そこら辺は食ってから考えりゃいいだよ、ほら早くしろよ。」 「あ待ってくださいよ!」 1日目18時49分 歓喜の晩餐 もちろん爆破予告されたホテルにあるレストランが通常通り営業出きるわけはなく警官による捜索で立ち入り禁止、案の定である 「オフッ!」 「やっぱりな。」 「何が爆破予告だぁ?ホテルがそれっぽい名指しされただけでレストラン関係ないだろこの野郎!」 「店員から聴きましたが、あの爆破予告に便乗してこのレストランだけを狙ってピンポイントで爆破予告があったようです。」 「は?これは他のマスターの嫌がらせか?」 「他の爆破予告も数十件ありそれらを合計すると冬木の町中に合計約14万個の爆弾が設置されているそうです。」 「どう考えてもイタズラだろ!いい加減にしろ!」 「実際にスーパーとか爆発してますし、どうやらサーヴァントの戦闘がそれだと思われているようですね。」 「そんなんガス爆発ってことにしとけこんちくしょう!」 「四次で燃えた公園で爆発があったらしいですしさすがにガス爆発では無理があるのでは?」 「よし教授わかった、これルーラー無能だわ。今日で最後の大隊喚ぶぞ。」 「ルーラーのせいにするのか……」 【新都・冬木ハイアットホテル30階レストラン/2014年8月1日(金)1849】 【ライダー(少佐)@ヘルシング(裏表紙)】 [状態] 筋力(5)/E-、 耐久(5)/ E-、 敏捷(5)/E-、 魔力(5)/E-、 幸運(5)/E-、 宝具(5)/E-、 飢餓。 [残存令呪] 8画 [思考・状況] 基本行動方針 聖杯戦争を楽しみ、セイバー(アルトリア)を嫁にする 1.調子乗ってんじゃねーぞこの野郎。 2.セイバー確保のための準備を進める。 3.爆破予告で他の主従(主に遠坂凛 セイバー)をあぶり出す。 4.サーヴァントと交渉をしたい。パッピーとか仲間にしたいよね。 5.ルーラーの動きが見えないな…… 6.マスター『も』楽しめるように『配慮』。 7.令呪を使った『戦鬼の徒』の召喚を試みたが‥‥伊達男の戦果をどう判断すべきか。 8.准尉にも指示をだす。場合によっては今日『最後の大隊』を出すか。 [備考] ●マスターと同等のステータス透視能力を持っています。 また、『戦鬼の徒』で呼び出したサーヴァントと視界共有を行えますが念話はできないようです。 ●ライダー(五代雄介)の非変身時、マイティ、ドラゴン、タイタン、ライジングドラゴン時のステータスと一部スキルを確認しました。 また仮面ライダーであることを看破しています。 ●ルーラーの特権の一つがサーヴァントへの令呪であることを確認しています。 他にも何らかの特権を複数持っていると考えています。 ●セイバー(アルトリア)のマスターが遠坂凛であることを把握しています。 ●予選期間中に他のマスターから令呪を多数強奪しました。 ●出典が裏表紙なので思考、テンションが若干おかしなことになっています。少佐の周囲にいる人物も場合によってはおかしくなります。 ●予選の間にスマホや現金を調達していたようです。 ●ありすとのパスが深まりました。 ●ホテルにいる主従達と情報交換をしました。 ●以下の怪文書が新都の警察署を中心にばら蒔かれました。 冬木市のリトルボーイへ メリークリスマス! あわてんぼうのサンタクロースだ 本当は6日に冬木大橋に、9日に冬木中央公園にプレゼントを届けようと思っていたんだが、日付を間違えてしまった かわりにたくさんプレゼントを用意したんだが、喜んでもらえたかな? なに?足りない?安心してくれ、まだあとプレゼントは7基ある 冬木教会 冬木ハイアットホテル 冬木病院 冬木中央図書館 月海原学園 穂群原学園 マウント深山商店街 今日の夜15時に届けにいこう そうすれば地上に太陽ができたときによくわかるだろう 届けにいくまで良い子でいておくれ サンタクロースは恥ずかしがり屋なんだ 家から出る子はお仕置きだ 第三帝国のファットマンより p.s. 親愛なるアルトリアよ 私は君がほしい もし君に会えたなら プレゼントは君だけのものだ 先の大戦で君はいつエミヤと会った? そこで私は待つ 文字の背景には鉤十字が描かれています。最大で【破壊工作 A-】の効果を持ちます。 ●上記の爆破予告が一部のNPCに影響を与え冬木市並びに市内の施設等に爆破予告が相次いでいます。市内のNPCに【破壊工作 E】相当の影響を与えています。 【ドク@ヘルシング(裏表紙)】 [状態] 筋力(5)/E-、 耐久(10)/E、 敏捷(5)/E-、 魔力(10)/E、 幸運(10)/E、 宝具(0)/、 魔力消費(微)。 [思考・状況] 基本行動方針 少佐と聖杯戦争を楽しむ。 1.そういえばシュレディンガー准尉を見ないな。 2.医者のサーヴァントとして振る舞う。 [備考] ●対外的には医者のサーヴァントでクラスはキャスターとしています。 ●ホテルにいる主従達と情報交換しました。 ●ショックガン所持。 ●アサシンやキャスターと陣地構築したのはただのふりでした。数ヶ所の盗聴が可能なだけです。
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せいはいせんそう 聖杯戦争 【分類】 【概要】 Fateの聖杯戦争の二次創作 テーマ 登場人物紹介 第5656次聖杯戦争第01話ボクの名前はゴロゴロです +... 「なんだチビ、お前どこの英霊だ」←テンプレ 「はい、ボクの名前はゴロゴロです」←ここまでテンプレ 「たとえチビだろうがサーバントなら容赦はしねぇぜ」(槍を眼前につきつける」 ぱくっ 「ぱくっ?」 するとそこには突きつけられたゲイボルグの穂先を口にくわえるゴロゴロの姿。 「おお!?お前何してやがる!」 ぶんぶんと槍を振り回すが離れないゴロゴロ。まるでお菓子を食べるかのようにポリポリと槍を飲み込んでいく(比喩にあらず) 蹴ったり殴ったりするが引き離せず、槍はゴロゴロのお腹に収まってしまった。 「俺の槍が……orz」 悲しそうにするランサーにゴロゴロは、ポーチから2本の槍を取り出した。 「えっと、あなたがおっととした槍はこの金のやりですか、それとも銀のやりですか」 「は?」 「えっと……金のやりと銀のやり……えっと……?」 「……どっちでもねえよ、俺のやりは赤い槍だ、返せよ」 「しょーじきものには両方」 「いらねえよ」 (´・ω・`) 「はい(ぺっ)」カランカラン 「(槍は無傷か……実際にかみ砕いて食ってたわけじゃなさそうだな。得体の知れないやつだ)」 「あの……しょうじきものにはりょうほう(金銀の槍)」 「だからいらねえって」 「そっかぁ……」(しまいしまい (あのポーチが宝具か?亜空間系の宝具となるとキャスターか?) 「(答えるとは思えないが)おいチビ、お前何のクラスのサーヴァントだ?」 「そのクラスってのがよくわからないんだけど、リンはガーデナーって言ってたよ」 (言うのかよ、しかもエクストラクラスかよ)
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予算の少ない聖杯戦争 ◆NIKUcB1AGw 男は、真面目で誠実だった。 だが同時に、バカで好色だった。 ふとしたきっかけで女遊びを覚えた男は瞬く間にのめり込み、多額の借金を抱えることになってしまった。 ◆ ◆ ◆ その朝、彼は自宅である狭いアパートで寝ていた。 彼を眠りから呼び覚ましたのは、ドアをけたたましくノックする音だった。 飛び起きた彼は、すぐに何が起きているのか理解する。 逃げ出したい、という気持ちはある。 だがなまじ性根が真面目であるがゆえに、それができない。 男はノロノロと玄関に移動し、扉を開ける。 「おう、素直に出てきたか。そこは褒めてやるよ」 「ブルアイランドさん……」 そこに立っていたのは、彼が金を借りている金融会社の社長だった。 「それじゃあ貸した金、さっさと返してもらおうか」 「もう少し、もう少し待ってください。 明後日になれば給料が入るんです!」 「先月もそう言ってたよなあ。だから俺も待ってやったんだ。 だがてめえは、入った給料を全部女に貢いじまったじゃねえか。 同じ言い訳が二度通用すると思ってるのか?」 「先月は仕方なかったんです! あの子を指名してあげないと、店をクビになるかもしれなくて……」 「やかましいわ!」 男を突き飛ばし、社長はずけずけと部屋の中へ足を踏み入れる。 「現金がないなら、少しでも金になりそうなものをもらっていくぞ。 ん? なんだこりゃ……」 社長が見つけたのは、部屋の隅で埃をかぶっていた棒状の物体だった。 よく見ればそれは、この安アパートにはまるで似合わない刀剣だった。 (なんだ、あの剣は……。あんなもの、私の部屋にあるはずが……。 いや、違う。あれは私が、ずっと愛用してきた……) 男の脳裏に、今まで失っていた何かがよみがえってくる。 「美術品か? まあ、こいつの持ち物にしちゃ上等……」 「うおおおおお!!」 「なっ!」 突如雄叫びを上げながら突進してきた男に、社長は一瞬ひるむ。 その隙に男は剣を奪い取り、鞘から抜き取る。 そして驚愕の表情を浮かべる社長に向かって、刃を振り下ろした。 ◆ ◆ ◆ (思い出した……。私は、勇者ヨシヒコ!) 男……ヨシヒコは、裏路地を走っていた。 (社長が目覚めれば、血眼になって私を探すだろう……。 もうあの家には戻れんな……) ヨシヒコに斬られた社長だが、彼は死んだわけではない。 ヨシヒコが用いる剣は、「いざないの剣」。 斬った相手を眠らせ、命を奪うことなく制する剣である。 (それはそうと、私はいったいなぜこんなところで平凡な労働者として働いていたのだ……。 いや、私の頭の中に流れ込んできた情報で「聖杯戦争」とやらに巻き込まれたというのはわかるのだが……。 あまりに情報量が多すぎて、すぐには理解できん……) 改めて言うが、ヨシヒコはバカである。 与えられた膨大な知識を、即座に理解することなど不可能であった。 ましてや、走りながらなのだからなおさらである。 そうこうしていると、彼の眼前に突然白いトランプが降ってきた。 それはまばゆい光を放ち、人の形に変化していく。 「な、なんだ!?」 敵襲の可能性も考え、剣に手をかけるヨシヒコ。 やがて光が消えたとき、そこには一人の青年が立っていた。 「サーヴァント、キャスター。召喚に応じて参上した。 君の力になろう」 「あ、あなたは……」 「ん?」 召喚されたキャスターの姿を見たとき、ヨシヒコの警戒心は驚愕に吹き飛ばされていた。 とはいえ、キャスター自身に見覚えがあったわけではない。 彼が反応したのは、その服装だ。 「その格好、普段の私にそっくりだ……。 もしや、あなたも勇者なのですか!」 そう、紫のターバンにマントというキャスターの姿は、元の世界で冒険していたときのヨシヒコとほとんど同じものだった。 ちなみに、今のヨシヒコの服装はよれよれのTシャツに短パンというものである。 何せ寝起きの状態で家を飛び出してきたので仕方ない。 「いやあ、勇者は僕じゃないよ。僕の息子さ」 ヨシヒコの問いかけに対し、キャスターは柔和な笑みを浮かべながら答える。 「息子……? つまりあなたは、勇者の父親ということですか」 「そう、僕は勇者の父親。グランバニア王で、モンスター使い。 でも一番気に入ってる肩書きは、ただのさすらいの旅人。 僕はリュカ。よろしくね」 リュカが仲間になった!(ファンファーレ) 【クラス】キャスター 【真名】リュカ(主人公) 【出典】ドラゴンクエストV 天空の花嫁 【性別】男 【属性】中立・善 【パラメーター】筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:A 【クラススキル】 陣地作成:― 魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。 リュカは全盛期を流浪の旅人として過ごしたため、このスキルは機能していない。 道具作成:E 魔力を帯びた器具を作成可能。 リュカは本来そういった能力を持たないが、クラス補正により薬草や毒消し草などの安価な消耗品なら作ることができる。 【保有スキル】 カリスマ:B 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。 Bランクであれば国を率いるに十分な度量。 魔術:B 基礎的な魔術を一通り修得していることを表す。 リュカは真空系の攻撃呪文と、回復呪文を主に用いる。 友誼の証明:C 敵対サーヴァントが精神汚染スキルを保有していない場合、相手の戦意をある程度抑制し、話し合いに持ち込むことができる。 聖杯戦争においては、一時的な同盟を組む際に有利な判定を得る。 【宝具】 『ドラゴンの杖』 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:100人 龍の力が込められた杖。 打撃武器として振るえば、破格の破壊力となる。 また真名を解放すれば、一定時間自らの姿を龍に変えることができる。 ただしその間は「狂化」に近い状態となり、「敵を攻撃する」以外の行動が取れなくなる。 いちおう、マスターが令呪を使えば、それ以外の行動も可能になると思われる。 『集え、愛を知る魔物よ(リュカズ・ワンダーランド)』 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-75 最大捕捉:80人 固有結界。 広大な草原に生前に仲間にしたモンスターたちを召喚し、一斉攻撃を仕掛ける。 なおキラーパンサーのみ、固有結界を発動しなくても単独で召喚が可能である。 【weapon】 本来なら伝説級の装備をいくつも持つが、今回はクラス制限もあってドラゴンの杖しか持ち込めていない。 【人物背景】 グランバニア国の王子として生を受けた男。 しかし生まれた直後に母・マーサがさらわれ、それを探す旅に出た父・パパスと共に各地を放浪していたため自分が王子だということは知らずに育った。 成長した後、グランバニアの王位を継ぎ、母をさらった魔王ミルドラースを討ち取った。 目の前で父を殺され、その仇に拉致され10年以上の間奴隷として過酷な労働を強いられる、 呪いにより8年間を石像として過ごす、ようやく再会できた母をその直後に殺されるなど、 その人生はあまりに不幸続きなことで知られている。 【サーヴァントとしての願い】 一人でも多くの人を助けたい 【基本戦術、方針、運用法】 クラススキルがほぼ死んでいるため、典型的なキャスターとしての運用は事実上不可能。 前線でバリバリ戦っていくことになるだろう。 幸い強力な宝具を二つも持ち、本人の戦闘力も悪くないため真っ向勝負に不都合はない。 またそのスキル構成から、仲間を集めての集団戦に向いているといえる。 【マスター】ヨシヒコ 【出典】勇者ヨシヒコシリーズ 【性別】男 【令呪】スライムのシルエット(とんがり、右半分、左半分でそれぞれ一画) 【マスターとしての願い】 巨乳のお姉ちゃ……ゲフンゲフン 特になし 【ロール】 多額の借金を抱えた、肉体労働者 【weapon】 「いざないの剣」 勇者の証である剣。 斬った相手を傷つけず、深く眠らせる。 【能力・技能】 幾度も魔王を倒した勇者であり、戦闘力は相応に高い。 ……はずなのだが、雑魚モンスターに苦戦することもあり、その戦闘力は変動が激しい。 根が単純であるため、デバフ系の魔法・技にはほぼ100%かかる。 しかしバカが幸いして、相手が一般常識を持っていることを前提とした催眠術にかからなかったこともある。 【人物背景】 カボイの村で生活していた、正直者で素直な青年。 岩に刺さっていた「いざないの剣」を抜いた(というか勝手に抜けた)ことで勇者とされ、魔王打倒のために旅立つことになる。 紛れもない善人ではあるのだが「バカすぎて空気が読めない」「目の前の問題に気を取られすぎて、最終目標を放り出す」「巨乳に弱い」など 数々の問題点も抱えている。 今回は第2作「悪霊の鍵」終了後からの参戦。 【方針】 異世界だろうと、勇者のやるべきことは変わらない。 悪を倒し、平和を取り戻す。 (まだ聖杯戦争については、4割くらいしか理解していない)
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「うわっ!寝過ごしーーあれ‥‥?」 チョコこと黒鳥千代子が目覚めたのはもうすぐ6時になろうかという時だった。カーテン越しに射し込んだ朝日に照らされた時計を見て思いの外早起きしてしまった自分を恨めしく思いつつ、あと二時間は寝れるなとすぐさま二度寝に入る。 しかし。 「寝れない‥‥」 なぜな目が冴えている。眠気がやって来るどころかなにか大事なことをやり忘れているような気すらしてくる。頭にかかったもやを払うかのように頭をふり、考えること数十秒。 「‥‥あー、ドリルやらなきゃ。」 ようやくすっきりしはじめた頭で思い出したのは宿題のことだった。これをやらないとまた怒られる。いやいやながらも起き上がり学習机に座って始めようとするが。 「あれっ、どこだっけ?ドリルドリルドリーードリル?」 今度はドリルが見つからない。そもそもどんなドリルかがまず思い出せない。これはまずい。宿題を忘れているのに忘れていたことを忘れているパターンだ。ランドセルにはそれらしいものもないしもしかして学校に忘れたのだろうか。 「ううん、学校には持っていってないし持っていけるわけない。それに松岡先生はあんなガミガミ怒らない‥‥あれ?じゃあーー」 じゃあ誰に怒られていたのだろうか。そもそもなぜ学校に持っていってはいけないのか。そんなドリルってどんなドリルなんだ。松岡なんて先生は学校にいただろうか。そんなまともな先生だっただろうか。考えれば考えるほど頭に霧がかかり、そして。 「ーーよし、寝よう。」 チョコは考えることをやめた。なんかめんどくさくなってきた。ぶっちゃけ思い出すとろくでもないことになりそうな気もした。元はオタク系だもん、しかたないよ。しかしここで問題が起きる。既に目は冴えてしまっていていかんせん寝つけない。かといってこんな時間に寝ないのもいかがなものか。結果眠くなるまでとりあえず魔法書でも読んでごろごろしてようと思い本棚を見る。だが、そこに肝心の魔法書がない。 「ウソ、なんで!あれ!?」 めっちゃ驚いた。趣味の魔法書が一冊もなくなってるとか地獄少女全巻無くしたのの半分くらいのレベルだ。これにはさすがに焦り魔法書を慌てて探し始めるも、ない。出てくるのは輪島塗の箸に黒いゴスロリとわけのわからないものばかりで。ほんと箸とゴスロリしかなくて。ほんと箸とゴスロリしかなくて。 「ーーあっ、そっか。あー‥‥」 ようやく思い出した、なぜ自分がここにいるのかを。なぜこんな時間に起きてドリルなんかやろうとしてたのかを。 「あたし黒魔女さんだった。」 チョコはすぐにゴスロリに着替えると紙とペンを取り出す。黒魔女修行の朝練が無くなったのはいいがそれより大変なことが既に起こっている。 聖杯戦争のルールはさっき思い出した。使い魔を呼んで戦うポケモン的なものだったはずだ。負けたら死ぬというのが実に黒魔法らしい。 チョコは書き上げた紙を見る。いわゆるこっくりさんの時に使う紙だが、彼女が黒魔女になったときを思い出しながら書いたのでキューピットさんと呼ぶべきか。 紙を床に置き、手をその上に置く。 サーヴァントを呼び出す呪文は思いつかない。ので、彼女にとって一番思い出深い呪文を使うことにした。 「ギュービッドざん、ギュービッドざん、南の窓がらお入りぐだざい」 唱えたのは始まりの呪文。彼女が黒魔女になることになった、自らの師を呼び出した呪文。 彼女が求めたサーヴァントは自らの師のようなサーヴァント。この聖杯戦争で最も頼りになるイメージを浮かべその呪文を唱える。 そして、光だした紙を直視できなくなり彼女が目をつむったときその声は聞こえた。 「お前が私のマスターか?」 その声は彼女が求めたものとあまりに似ていて。 目を開けたらとき目の前には一人の美女が立っていた。彼女の師と同じように銀髪で、彼女の師とは真反対の白ずくめの服。 薄く微笑んだその姿に思わず見とれていて。 ムニッ。 (なっ!?) 唐突にほっぺたを引っ張られた。 「令呪があるならマスターだな。最初にいっておくが私のステータスは思ったより高くなかったがお前からの魔力供給しだいで変わってくる。それと聖杯戦争についてだがまず最初は動くな。漁夫の利を狙われるのがオチだ。最初は情報を集めるんだ。敵のサーヴァントを見つけたからといって積極的に襲うのはもっての他だ。これだけの数のサーヴァントがいれば自然と徒党を組み始める。あとライダーのクラスには気をつけろ。空を飛べたり対軍宝具を持ってたりしたらマスターを狙われる。」 微笑みからは想像できない真剣な顔でそのサーヴァントはそう言った。サーヴァントは歴史上の英雄らしいから昔そういう人と戦ったこともあるのだろう。 とりあえずドラゴンは恐いって思った。 【東京/2014年7月1日(火)0620】 【マスター】 黒鳥千代子@黒魔女さんが通る!! 【参加方法】 『黒魔女さんのクリスマス』において異端審問にかけられそうになったときに持ってた輪島塗の箸がゴルフェの木片だったっぽい。 【マスターとしての願い】 とりあえず元の世界に帰って異端審問をどうにかしておばあちゃん達を助け出してあとついでに黒魔女やめたい。 【weapon】 杖(輪島塗の箸。) ゴスロリ(着てると静電気のように溜まった魔力の影響で魔法が使いやすくなる。魔法でいつもキレイ) 【能力・技能】 黒魔女三級程度の魔法は一通り覚えているが使いこなせるかは別。とりあえず人に死の呪いをかける即死呪文はうまく使えない、はず。 また彼女の世界の魔法体系のせいで『時間あたりの供給量は少ないが魔力は実質無尽蔵』というわけのわからないことになっている。供給量の上限を上げることは相当練習しないとムリ。 【人物背景】 第一小学校五年一組。通称チョコ。 黒髪おかっぱで運動神経はもちろん頭も悪い。一人と夜とオカルトが好きというニチアサの主人公には絶対になれないタイプ。 祖母が魔女であったことから黒魔法の才能があり、魔界から派遣されたインストラクターのギュービッドのもとで黒魔女の修行をしているが、いやいややらされているため本人は黒魔女になったらすぐに黒魔女をやめる気でいる。 今回異端審問官のロベに嵌められ異端審問を受けることになり、その最中になんとかしようと考えてたら聖杯戦争に参加していた。 【方針】 負けたくはない。でも傷つけたくもない。 サーヴァントに言われたことをとりあえず守る。 ていうかまずは名前を聞きたい。 【クラス】 セイバー 【真名】 テレサ@クレイモア 【パラメーター】 筋力B+ 耐久B 敏捷B+ 魔力A+ 幸運D 宝具B 【属性】 中立・善 【クラススキル】 対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 騎乗:** セイバークラスにあるまじきことだが、騎乗スキルは存在しない。 【保有スキル】 半人半妖:B その身に妖魔の血肉を取り入れた者。単独行動:Bに加えて実体化に必要な魔力が他のサーヴァントより少なくて済む効果を持つ。さらに妖魔の成り立ちから、対竜宝具の攻撃により受けるダメージが多少追加される。以下のスキルは全てこのスキルに基づく。 妖力解放:A 魔力を身体強化に注ぎ込み、筋力、耐久、敏捷値を上昇させる。総魔力量の10%以上で瞳の色が金色に、30%以上で顔つきが醜く変貌し、50%以上で身体つきが変化する。 80%を超えると元に戻れなくなり、妖魔として覚醒する。 再生能力:C 魔力を消費し、肉体を復元するスキル。有害な毒素を体外に弾くこともできる。時間をかければ切断された四肢の接続が可能。魔力の消費量に伴い、妖力解放に順じた肉体の変貌が起きる。 気配遮断:D サーヴァントの気配を絶つ。魔力とその漏洩を極限まで抑える能力。 【宝具】 『妖気探知』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000 テレサの所持する最もずば抜けた能力が、宝具として昇華された。 テレサを中心とした半径数Km圏内の魔力を感知し、位置と大きさを正確に捕捉できる。強い魔力や同じ探知 の気配なら圏外でも感知する。さらに気配遮断さえ見破ることが可能。 戦闘時には敵の魔力の大きさ、流れを一つ残らず掴み取り、全ての行動、攻撃の軌道を予測する。 『無銘・大剣(クレイモア)』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1 クレイモアはテレサの元居た世界では戦士の象徴、代名詞として扱われているため、宝具として登録され た。 特殊な能力は一切無いが非常に硬度が高く、格上の宝具と打ち合ってもそれが単純な物理攻撃なら、折れる どころか刃毀れ一つ作ることは無い。 【Weapon】 『無銘・大剣(クレイモア)』 テレサの宝具でもある。 【人物背景】 人間に擬態し人を食う妖魔と、それに対抗するべく妖魔の血肉を取り入れて人外の身体能力を手に入れた、 半人半妖の戦士が戦う世界。その世界でテレサは全現役戦士のナンバー1、さらに歴代ナンバー1の中でも最強とまで謳われる存在だった。 力、素速さ、剣技の全てが並の戦士をはるかに上回り、特に相手の妖気を感知する能力が極めて優れ、妖気の流れ、強弱から動きを予測する先読みを得意とし、いかなる相手、人数であっても微笑みを絶やさず敵を殲滅すること、そしてそれ以外に特に目のつく戦い方をしないことから「微笑のテレサ」の異名を持つ。 人間にも同僚の戦士にも何も期待することなく、生き甲斐を感じる訳でもなく淡々と妖魔退治をしていたが、ある依頼で偶然妖魔に連れ回されていたクレアを助けたことで、運命が変わることになる。最初は勝手についてくるクレアを疎ましく思っていたが、クレアの追う理由がテレサがずっと押し殺してきた心の痛みを抱きしめていたいという理由だったことから、互いにかけがえのない存在となる。 その後、クレアが人として幸せをつかむことを願って妖魔を退治した村に預けたが、その村が盗賊に襲わ れ、クレアを助けるため盗賊達を皆殺しにした。その為粛清される所を、逆に他の戦士を斬りクレアのためだけに生きることを決意し、組織を離反して追われる身となった。 追手として選ばれたテレサ以下のナンバー2からナンバー5の四人という当時最強の布陣を妖力解放無しの圧倒的な強さにより返り討ちにしたが、いずれ自分の強さを超えると直感したプリシラの止めを刺さなかっ た情けが仇となり、一人でテレサを殺すため無理な妖力解放をし、限界点を越え後は覚醒を待つのみとなっ たプリシラに自分を殺すよう頼まれ止めを刺そうとした瞬間、逆に両腕を斬り落とされ、首を刎ねられて死 亡した。 【聖杯への願い】 受肉してクレアと暮らす。 【基本戦術、方針、運用法】 予選期間中は本選の準備のために潜伏。 基本は陣地に篭もり情報収集に専念し作戦を立てる。 戦闘以外の部門は魔術師らしいマスターに期待したいがたぶんムリ。 戦闘はセイバーらしく剣による接近戦を主とし戦っていくが、気配遮断のスキルを活用してマスターを狙っていくのもあり。妖力解放もマスターの支援があれば大きな戦力として数えることができる。 徒党を組むことも考慮に入れる。 あと竜種は最大限警戒。
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数十年に一度、日本の冬木市において行われる戦いの呼び名。 戦いは全7陣営で行われ、各陣営はマスター(聖杯が選んだ参加者)とサーヴァント(マスターが召還した英霊)がペアになって戦う。 全7陣営は入り乱れ、冬木市内でバトルロイヤルを繰り広げる。 トーナメント形式ではなくバトルロイヤルのため、各所で様々な戦いが行われる事となる。 最後まで生き残った陣営には聖杯という〝あらゆる願いを叶える奇跡〝が授けられる。
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灰色の雲が咽ぶ。廃墟の街が震える。逆さ吊りの魔女が嗤う。 舞台装置の名を持つものが――ワルプルギスの夜が、見滝原という舞台を壊していく。 瓦礫が舞い、人々が怯え、使い魔達の場違いな踊りがこの街を日常から遠ざける。 すべてが終わる。 願いも、希望も、明日も何もかもを飲み込んで、舞台が終わる。 でも、そんなことはさせない。 希望を抱くのが間違いだなんて言われたら、そんなのは違うって何度でも言い返せるから。 きっといつまでも、そう言い張れるから。 だから、あとは一歩を踏み出す勇気さえあれば、世界は変えられる。 これが、鹿目まどかの決断。 「私、すべての魔女を生まれる前に消し去りたい。すべての宇宙、過去と未来のすべての魔女をこの手で」 これが、鹿目まどかの願い。 「今日まで魔女と戦ってきたみんなを希望を信じた魔法少女を泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい」 これが、鹿目まどかの祈り。 「それを邪魔するルールなんて壊してみせる。変えてみせる。これが私の祈り、私の願い」 これが鹿目まどかの―― 「さあ、叶えてよ……『ムーンセル』!」 ▼ ▼ ▼ がばり、とまどかは自室のベッドの上で跳ね起きた。 「……………………夢オチ?」 寝ぼけ眼をこすり、あくびをひとつして、両手で自分の頬を軽くはたき、 「……じゃないよね。大丈夫、思い出せる」 すぐにその柔和な顔つきが真剣なものへと変わる。 あの時――ワルプルギスの夜が襲来したあの時、魔法少女になって世界を改変するという決意を胸に、 ただひとり戦い続ける暁美ほむらの元へと急いでいたところまでは覚えている。 何故、その自分がこの月の内側へと召喚され、造られた街で今まで通りの生活をしていたのか。 その理由は杳として知れないし、きっと途方も無い偶然か必然が働いたものだとしか考えられない。 きっと理解も出来ないだろう。しかし、まどかは理解する必要はないと、漠然と感じていた。 聖杯戦争。 与えられたその知識が、おぼろげながらも自分がこれから進むだろう道を照らす。 万能の願望器が、無数の因果を束ねたまどか自身の魂と同じ働きを示すのならば。 「……私は、まだ魔法少女にはなってない」 自分の魂の具現たる宝石――『ソウルジェム』を所持していないことを確認し、それからパジャマの胸元を覗きこむ。 年齢から考えてもやや膨らみの薄い胸、その少し上に、焼けるような疼きの残滓が感じられる。 「だけど、まだ何もかも駄目になっちゃったわけじゃない。私がマスターになったのなら、きっと……!」 胸に刻まれた三画の刻印。 令呪。聖杯戦争を戦うマスターたる証。 たとえ魔法少女になる対価として世界を救うことが出来なくても、聖杯に手が届くのならば。 すべての魔法少女の願いを、絶望に変えないで済む。 「……行こう」 上ってきたばかりの朝日が眩しい。時計を見れば、家族は起き出していないような時間帯だ。 ねぼすけの自分が一番に起きるなんて不思議な感じだけど、そんな感傷に浸っている場合ではない。 まどかは制服に着替え、お気に入りのリボンで髪を括って、誰にも気付かれないように家を出た。 ▽ ▽ ▽ 丘の上でまどかは大きく息をついた。ここまで真っ直ぐに走ってきたから相当に呼吸が乱れている。 深呼吸を繰り返し、ようやくまともに話せることを確信してから、周囲に誰もいないか左右に視線をやる。 幸いというか、まだ夜明けから間もない時間帯では人通りはなく、ここにいるのはまどか一人……いや、『二人』か。 まどかはもう一度深呼吸をした。今度は息を整えるためではなく、心を落ち着かせるための。 そして口を開く。呼びかける。そこにいる誰か……ずっと一緒にいたはずの誰かへと。 聖杯戦争の知識は、漠然としたものではあるものの全て頭に入っている。 「私、鹿目まどか。お願い、あなたの名前を教えて。姿を見せて、私の『サーヴァント』!」 しかし、まどかが真っ直ぐに据えた視線の先に、望む英霊の姿は一向に現れない。 気配は確かに感じていたはずなのにと訝しんで、僅かに顔を上げ、その時ようやく気付いた。 そして、見上げた。まどかのサーヴァントは、文字通り『宙に浮いていた』のだから。 墨を流したような黒髪。赤と白の二色が鮮やかに映える巫女服とリボン。 片手にはお祓いに使うような御幣を握り、紅白の少女は重力を無視して虚空に浮かんでいた。 「……ふぅん。鹿目まどか、ね」 彼女が口を開く。やる気のない口調だが、我が道を行くタイプであるようにも感じられる。 仲良く出来るかな、と真っ先に考えて、まどかは彼女と友達になりに来たわけではないことを思い出した。 もうただの中学生ではないのだ。聖杯戦争のマスターらしいことを考えないと。 そうだ、クラス。サーヴァントは7つのクラスに振り分けられて召喚される、と記憶にある。 見たところ巫女さんのようだから、キャスターなんだろうか。 しかし彼女の言葉は、まどかの予想を完全に裏切った。 「本当は霊体化してずっと一緒にいたんだけど、確かに自己紹介はまだだったわね。 私は霊夢。『博麗霊夢』。此度の聖杯大戦では、『バランサー』のクラスとして現界したわ」 覚えのない単語に、まどかはぱちぱちと瞬きした。 「……ランサー?」 「槍兵(ランサー)じゃなくて調整者(バランサー)。本来ならば存在しない、第八のエクストラクラスってわけ」 聞き間違えではなかったらしい。調整者の英霊、博麗霊夢。 彼女の話すところによると、バランサーとは世界を安定へと導く逸話を残した英霊が該当するクラスらしい。 本来はこのクラスとして召喚されるほど強い適性を持つ英霊は少なく、霊夢もキャスターかアーチャーが本来のクラスだと言った。 それがこうしてバランサーとして召喚されたのは、よほどマスター側に引き寄せる因果があったのだろう、とも。 「もしかして、私の願いが引き寄せたのかな……?」 まどかは、霊夢に話した。魔法少女のこと、その願いを救うための願いのことを。 理(ことわり)を安定させるのがバランサーの役目なら、確かにまどかの願いは、調整者の英霊と縁を創るに足るものだろう。 霊夢は興味なさげに聞いていたが、かといって聞き流していたわけではないようで、話が一段落するとおもむろに口を開いた。 「……で。マスターは、その願いのために人を殺せる?」 そこが一番大事なんだけど、と淡々と口にする霊夢の言葉に、まどかは僅かに口をつぐんだ。 分かっている。聖杯大戦で聖杯を手にするには最低でも7組、もしかしたらそれ以上を排除しなければならない。 必ずしも自分の手に掛ける必要はないとはいえ、それでも死を黙認するのであれば殺すのと同じだ。 殺せるわけがない、と思う。 まどかはただの中学生だった。 温かい愛の中で育った。 人の生き死にと無縁の生活を送ってきた。 幸せだった。 その幸せが誰かに守られていると知らず、それでも幸せだった。 だけど、それでも。 「叶えたい願いがあるの。譲れない願いがあるの。この願いのために、私の命を全部使ってもいいと思えるの。 だから私、戦うよ。残酷なこと全部、受け入れられないこと全部、この願いの強さで無理やり塗り潰してでも」 霊夢が僅かに眉をしかめ、まどかの心臓が小さく跳ねる。 「……その矛盾はいつかあんたの心を砕くわよ」 だけど、怯んではいられない。ここで怯むわけにはいかない。 「それでも構わない。どんなに辛くっても、苦しくっても、絶望しても、私、行かなきゃいけないから」 まどかがもしも魔法少女なら罪悪感でソウルジェムが真っ黒に染まるほどの絶望を抱えることになったとしても。 これが、死んでいった魔法少女達の、今も戦う魔法少女達の、これから生まれる魔法少女達の、願いに報いる唯一つの方法なら。 悲鳴を上げそうな優しい心を抑え込み、その意志の視線だけを向けるまどかを見て、霊夢はやれやれと溜息を付いた。 「……ま、私は別にどうでもいいんだけどね。面倒事は御免だし。どのみち呼ばれたからには戦うだけだし。 この聖杯大戦も、聖杯戦争の理からすれば立派な異変なんだから、博麗の巫女らしくちゃっちゃと解決してお茶にしましょ」 つかみ所のない口調でそう言って霊夢が霊体化するのを見届け、まどかは大きく息を吐いた。 霊夢に言ったとおり、殺し合いに身を投じる覚悟が出来ているとは言い切れない。 それでも、たとえ覚悟が伴わなくても、願いのために進まなきゃいけないから。 ――目覚めた心は走り出した。もう何があっても、挫けない。
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ダウンロード情報:聖杯戦争 ダウンロード情報:聖杯戦争 解説 ライトノベル「Fate/Zero」をモチーフにしたデッキ。 合計40枚+08枚+00枚 上級03枚 アサシン 黄金のホムンクルス 守護天使 ジャンヌ 下級17枚 X-セイバー アナペレラ 闇の暗殺者 ウィンドフレーム 華麗なる潜入工作員 寄生虫パラサイド 召喚僧サモンプリースト 聖騎士ジャンヌ ダーク・アサシン デュアル・ランサー 深淵の暗殺者 バイス・バーサーカー 墓守の暗殺者 秒殺の暗殺者 フレムベル・アーチャー 炎の女暗殺者 ライライダー 錬金生物 ホムンクルス 魔法14枚 暗黒界の書物 禁じられた聖杯×3 次元の歪み 死者転生 灼熱の槍 召喚師のスキル 召喚の呪詛 所有者の刻印 伝説の剣 魔女狩り モンスターゲート 幽獄の時計塔 罠06枚 運命の火時計 剣闘獣の戦車 降霊の儀式 最終突撃命令 シールドスピア メタル・リフレクト・スライム エクストラ08枚 聖女ジャンヌ ジャンク・アーチャー ジャンク・バーサーカー XX-セイバー ヒュンレイ TG ハイパー・ライブラリアン ドラグニティナイト-ガジャルグ ドラグニティナイト-ゲイボルグ ブラック・レイ・ランサー サイド00枚 元ネタ(Fate/Zeroネタバレ注意) +... カード名 解説 X-セイバー アナペレラ,XX-セイバー ヒュンレイ 英霊「セイバー」。女性である点も一致している。 ウィンドフレーム セイバーの宝具、「風王結界(インビジブル・エア)」及び「風王鉄槌(ストライク・エア)」から。 伝説の剣 セイバーの宝具、「約束されし勝利の剣(エクスカリバー)」から 黄金のホムンクルス,錬金生物 ホムンクルス アイリスフィール及びイリヤスフィールは、聖杯戦争のために作り出されたホムンクルスである。 フレムベル・アーチャー,ジャンク・アーチャー 英霊「アーチャー」 バイス・バーサーカー,ジャンク・バーサーカー 英霊「バーサーカー」 寄生虫パラサイド 間桐雁夜は足りない魔力を補うため、刻印虫と呼ばれる虫を体内に寄生させて聖杯戦争に臨んだ。 ライライダー 英霊「ライダー」 剣闘獣の戦車 ライダーの宝具「神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)」から 最終突撃命令 ライダーの宝具「王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)」から。死してなおライダーに忠誠を誓う大勢の部下を呼び出し、数で征服する。あるいは言峰が令呪を使ってアサシンに特攻を命じたことかもしれない 召喚僧サモンプリースト,TG ハイパー・ライブラリアン 英霊「キャスター」 暗黒界の書物 キャスターの宝具「螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」から 守護天使 ジャンヌ,聖騎士ジャンヌ,魔女狩り,聖女ジャンヌ キャスターは、セイバーをジャンヌ・ダルクと勘違いしてしまう。 デュアル・ランサー,灼熱の槍,シールドスピア,ブラック・レイ・ランサー 英霊「ランサー」 ドラグニティナイト-ガジャルグドラグニティナイト-ゲイボルグ ランサーの宝具「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」から。実は色も同じ紅である。ゲイボルグはもう片方の宝具「必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)」ともとれるが、原典のケルト神話でもFateシリーズでもこの二つは完全に別物として扱われている。 メタル・リフレクト・スライム ケイネスの魔術礼装、「月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)」から。水銀を性質を生かしたまま自在に操る。こちらは防御だけでなく攻撃、索敵も可能。 アサシン,闇の暗殺者,ダーク・アサシン,深淵の暗殺者墓守の暗殺者,秒殺の暗殺者 英霊「アサシン」。妙に数が多いのは下記の「妄想幻想」からか? 炎の女暗殺者 アサシンの宝具「妄想幻像(ザバーニーヤ)」から。自身を何人もの個体に分けて活動する。個体の中には女性も存在した。 華麗なる潜入工作員 アサシンが遠坂邸に潜入した際の、結界回避の動きからか。 死者転生 サーヴァントは、武勲を立てた英雄を現世に呼び戻したものである。彼らは、過去に自らが抱いた夢や記憶、そして絶望すらも抱いて召喚される。 召喚僧サモンプリースト,次元の歪み,召喚師のスキル,召喚の呪詛,モンスターゲート,降霊の儀式 マスターたちが、サーヴァントを呼び出す儀式から。 所有者の刻印 マスターがサーヴァントを従える証である「令呪」。これを浪費するとサーヴァントに如何なる命令も下すことができるが、3つ使い切ってしまうとマスターの権利を失ってしまう。 幽獄の時計塔 ウェイバーとケイネスは、魔術協会であるロンドン時計塔の出身である。 魔女狩り 言峰綺礼は魔術師を狩る代行者である。 禁じられた聖杯 もちろん聖杯から。 運命の火時計 Fate(運命)。火時計なのは、アニメでは毎回最後に最終日のある時に向けたカウントが表示されることからか。
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十二時台、マウント深山、ある魔術師。 太陽はまさに頂点に達し夏の暑さは直角に降る熱線に煽られ勢いを増す。それは新都に比べれば緑の多い深山町にある商店街、マウント深山においても同様で、日向日陰に関わらず外を出歩く者はまばらだった。 「待たせましたネ、ハリー。」 ドアを勢いよく開け入ってきた少女は、しかし律儀にゆっくりと閉めると、光の加減で緑にも見える髪を半円を描くほどの早さで振り向きながらそう言った。額に浮かぶ珠のような汗が外の暑さを黙示する。窓から見えるシュラスコ屋の屋台をちらりと見ると、「停電で昼食に買っていく人が結構多くて」と言いながらテーブル上のピッチャーから水を注ぎ一息にあおった。 「ミツルは?」 「彼にはアンケートを纏めてもらっている。話を終えるまでには来るだろう。」 汗をタオルでぬぐいながら問う少女に、老齢の男は地図を見ながら答える。空調の止まった室内は温度こそ高くはないが人から発せられる湿度に蒸され、暑さ対策で閉めきられた窓がそれに追い討ちをかけていた。 携帯ラジオから流れる音だけが空間を占めること数分。唐突に、明かりがついた。同時にエアコンが涼やかな風をもたらす。「早かったな」と男は一つこぼすとその一人言よりも小さな声で異国の言葉を紡いだ。 「それで、話というのは?そのアンケートと関係が?」 「理解が早くて助かる。まあ、まずはこれを見てほしい。」 人避けの魔術。場に生じた魔力からそれを察して本題を切りだした少女に、男は一台のノートパソコンを持ってくると彼女に向けて開く。 「ようやくパソコン買ったんですか」 「嘗めるな。ケータイだって持ってる。二十一世紀なんだ。魔術師だってインターネットぐらい使えなきゃなあ。」 購入したばかりなのだろう、なにやら色々と広告のシールも貼られたままのそれを少女は見る。 画面には画像の表示されたウインドウが幾つかあった。橋、川、ビル、病院、ファミレス、商店街。一見何の関連性のないものだが、少女にはすぐにその共通点がわかった。 「この写真冬木ですか?」 自分の住んでいる街だ。一度か二度しか行ったことはなくともそれが地元の光景であることに気づくのは魔術師でなくとも容易い。こんなものを見せるためにわざわざ呼んだわけではないだろうと、画像を次々に見ていく。 その顔が険しいものになるまでに一分とかからなかった。 「ここに写ってるのは……これじゃまるで。」 「ああ。こんな大っぴらに魔術を使うなんて、しかもこれだけのことができるとなるとアレしかいない。」 後ろからした声に反射的に振り向く。認識阻害の魔術が使われているここに立ち入れるのは、魔術師をおいて他にいない。 ――もっとも、『いなくなっていない』からこそ問題なのだが。 「魔術協会から連絡があった。ロンドンいるはずの遠坂の当主が今日の朝辺りから行方不明らしい。ついては、現地の魔術師である我々が事後処理に当たれとのことだ。」 「サーヴァントだ。そうだろう、アシヤ?」 「わかってるなら軽々しく言うな。高町が『出張』中の今は、名目上はアンタがリーダーだからな。」 扉から入ってきた少年が鞄から紙の束を男に渡し、男はディスプレイに表示された画像に映る、フライングヒューマノイドを指差しながら受け取る。 二人の間で進む話に焦れて「いったい何が起きてるんです?」と問うた少女に、少年は極めて簡潔に答えた。 「第六次聖杯戦争だ。」 「そんな……聖杯は十年前に破壊されたはずじゃ?」 「そうだ。2005年に行われた第五次聖杯戦争で破壊された。少なくとも俺たちはそう聞かされていたはずだ。」 信じられない、と顔に書いてあるかのような顔を見せる少女に少年は首肯しながら答えた。 少女は冬木に来てそれほど長いわけではなかったが、それでもあの聖杯戦争の顛末については魔術師仲間から伝え聞いていた。あれだけの大規模な儀式だ、半ば羨望を込めて冬木の魔術師達はそれぞれに探りを入れたり事後処理を手伝ったりと各々情報収集という名のおこぼれを狙っていた。そのためある程度は聖杯戦争の内情を皆が知るところとなっていたのだが、聖杯戦争はもう行われないという遠坂側からの説明もあり、その説明と矛盾する今回の聖杯戦争らしき現象はどういうことなのか…… 「第五次聖杯戦争は2004年の――?」 そこで一つ、頭の中でガチリと、歯車の噛み合わない音がした。 「どうしたのかね?」 怪訝げな声で問いかける男の顔を見る。なぜだか、その顔は無感情なものに見えた。 「第五次聖杯戦争は、2006年では……?」 「なるほどエレナ。君は2006年か。ミツル、2006年に一票だ。」 わけがわからない。「どういうことです?」と唖然としたまま聞いた彼女に、「これを見ろ」と少年は一枚の紙をテーブルに滑らせる。正の字と正の字の出来損ないが並ぶそれは、一目見て混乱に拍車をかけた。 「第五次聖杯戦争はいつ起きたか。冬木の魔術師に聞けるだけ聞いた。一番多いのが2004年。二位以降は2002年、2005年、2006年、2000年だ。」 困惑、そして混乱。 こんなことはありえない。聖杯戦争が起こるよりずっと。 なぜならそれは、自分たちのことだから。あくまでも部外者であった聖杯戦争についてではなく、それぞれの記憶であるのだから。 「――記憶が操作されている?」 「可能性はある。皆が皆、聖杯戦争は2004年に起こったことを知っているし、事実起こったのは2004年のはずだ。だが……」 「冬木にいる魔術師の大多数が2004年以外に第五次聖杯戦争が行われた記憶も同時に持っている。」 「こんなことができるのは、それこそサーヴァントぐらいのものだ。」 思わず天を仰いだ。どうやら自分はとんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。頭がひどく痛んだ。 (なんか……もっと大事なことを忘れている気がしますネ……) はあ、とため息をつく。これから大変なことになりそうだ。 十三時台、冬木市立病院、ある外科医。 「縫合お願い」と言うと足早に扉を潜り手袋やマスクを外していく。幸い新都は停電していなかったのだが、疲労からかぐっしょりと汗ばんだインナーは体にまとわりついて気持ち悪い。「お疲れ様です!」との手術室からの合唱も背中で聞くだけに留め、向かうは貧乏臭いロッカールーム。 「――ようやくつながったか。」 けたましく鳴るPHSをロッカーから取り出し通話ボタンを押した途端にスピーカーから響いた、男の苦々しげな声に、女医もつられるのか眉間に皺を寄せて「なんだ、こっちは急患で忙しい」と苛立ちを込めて答える。窓の外で鳴いていた蝉が飛びたっていくのが見えた。 「ならわかっているはずだ。今何が起こっているか。」 「連絡員が死んだことか?それともサーヴァントのこと?」 「把握しているならなぜ報告を怠った。」 「いっただろ、急患で忙しいとな。」 にべもない、とはこの事か。 女の返答を聞いて遠くローマで男がため息をしたのも耳ざとくスピーカーは拾い、地球を半周して女のもとへと届ける。男の呆れと苛立ちも冬木まで運んでくるかのようだ。 手早く着替える。汗をぬぐう間もない。男が沈黙をやめたのはその僅かな暇だった。 「我々は現地で聖杯戦争が行われていると判断した。君は神秘の秘匿と人間一人のどちらが重要なのかもわからないのかね?」 冷徹な威厳。 込められているのは単に女への怒りだけではない。義務感、道徳観、正義感、そういったもの以外にも多分に感情的な部分と非感情的な部分がありありと。 しかしそれに対して、やはり女の返答は冷淡。 「わかってるさ。だから切るぞ。」 それだけ。 喚く男をよそに着替えを終える。 「警察署前のスーパーマーケット。そこで奇跡的に一命をとりとめた急患がいる。私の腕なら明日中に話を聞ける状態にできる。」 男の声に被せるように言い終話ボタンを押すとロッカーを叩きつけるように閉めた。 「結城先生!」 荒々しく扉を開けて一人の看護婦が入ってきたのは、ちょうどそのすぐ後だ。 「今行く。」 一声、返事をしてロッカールームを出る。女の戦場は待ってくれない。 十四時台、冬木警察署、ある警官。 「銃器対策部隊の田島です」とまだ若い警官が少し大きめの第一声を発したのは緊張のためというよりもそれだけ部屋の外からの声が大きいからというのが主な理由であった。 異常なまでに空調の効いた署長室はまるで真冬のようだ。設定温度が下限にされたエアコンは台風よろしく轟音を立てている。その音すらも最初は気づかなかったほど、防音の施されているはずのこの部屋に響いてくる大音声は、敬礼して返事をかかしめいて待っている男の耳を打っていた。 「署長の須藤です。」 一目見て、警官は署長が疲労困憊という有り様であると見てとった。これだけ寒い部屋であるにも関わらず、しきりに汗をぬぐっているその姿はどう見てもまともとは言えない。 そんなことを考えていると、「資料は読まれましたか?」と問いかけられた。ずいぶん言葉は丁寧だが、視線はデスクの上の書類へと落ちていてちぐはぐだ。言葉遣いのほうは普段のクセなのだろうかなどと思いつつも頭に叩き込んできた情報を要約しつつ返答する。 「では……どう思います?」 やはり視線は下に。しかし今度の問いは曖昧である。まあ、内容を考えればそうなのだろうが。 返答に困るものだが答えぬわけにはいかない。俺はこういう面倒なの嫌だから警察に入ったんだがなあ、などと心中でぼやきつつも意を決して警官は口を開いた。 「あー……個人的な考えで良いですか?」 「一言で言うと、冗談かと。」 「冬木大橋の倒壊はテロで納得できますし、この深山町のクレーターも隕石の落下ってことは分かるんですけど。」 「公園とビルとスーパーがUFOに襲われたっていうのは――」 「ドローンです」署長と目があった。 「……ドローンがレーザーで焼き払ったというのは、その、この資料を纏めた人間は正気なのかと。」 なんとか失礼にならないように気を配りながらも素が出てしまう。それでも言うべきことは過不足なく警官は言った。つまり、「お前ら頭おかしいんじゃねーの?」と。 この署長室に来るまでの間に半ばパニックになっている警官に何人会ったことか。だいたいUFOってなんだよ宇宙人ってなんだよトランスフォーマーか?今朝家出る前に前売り券買っちゃったぞこの野郎封切りまで一週間あるからそれまでになんとかせにゃならん。 こんな内容で許されるのは小学生の夏休みの自由研究までだ。もっと言ってしまえばそれ以下だ。こないだ手伝わされた知り合いの子供の『冬木市七不思議』という宿題のほうがましなできだ。 (って、めっっっっっっっっちゃ言いてえ。なんだよこれドッキリか?) 表情を変えないように努めながらも心の声は止まらない。しかし当然その声は署長に届くことはなく、再び目があうと喋り初めた。 「十年前のことです。」 「当時の冬木市では集団ガス中毒が頻発していました。」 「規模の大きいものでは穂群原という高校のほぼ全校生徒が被害に会っています。」 「このガス中毒は集団幻覚を引き起こしたようで、市民からはこの事件に前後して空へと昇る光の柱を見たとの通報が相次ぎました。」 警官のなかで正直なところ「この警察署の連中はクラックでもキメてんのか?」という疑念が広がる。集団幻覚のなってるのはお前らだろ、と。 「二十年前のことです。」 「この時も集団ガス中毒が起こり同じような光の柱を見たとの通報がありました。」 「それどころか黄金の鎧に身を包んだ天使や怪獣が現れたという通報まで。」 「そしてそれと前後して、ハーメルン事件と冬木ハイアットホテルの爆破テロがあり、極めつけはあの大火災です。」 本当に子供の自由研究のようなことを言い出した、と呆れ返る。というか先から言われていることはまんまそれだ。つい先日夏休みの宿題を手伝うために調べた情報とほぼ同じである。 しかし、一つ警官には気になる情報があった。それは同じ県で起きた事件だったためによく覚えている。当時は新興宗教にでもさらわれたと子供の間で噂になった。あのカルト教団のテーマソングはよくリコーダーで吹いたものだ。 「ハーメルン事件……児童連続失踪事件ですか。」 「ええ。今の冬木市が呪われた地などと呼ばれるきっかけになった、と二十年経った今でも都市伝説に語られているあの事件です。」 馬鹿馬鹿しい、とは今度は思えなかった。 自分はいわゆる刑事ではないが、警察官になってからあの事件を少し調べたことがある。それはほんの好奇心からだったが警察内部から知ることのできる情報は多いはずだった。 だがそれは異常だった。 捜査資料と呼べるものは存在しなかった。誤解を招かない言い方をすれば、捜査資料に書かれた情報のうち被疑者に繋がるものは何一つなかった。当時の混乱を考えても十分な人手と手間隙を用いていたはずなのに、何もわからないということしかわからなかったのだ。最初にそれを見たときは上層部からの圧力でもあったのかと半ば真剣に考えてしまったほど、異常なまでに手がかりがない。そのことが爆破テロや集団幻覚といったことより、そんな大きな陰謀の匂いがするものより強く印象に残った。 「我々は今回の一連の事件をある種の見立て殺人のようなものとして捜査しています。」 署長は警官の目をじいと見て言った。警官も署長の目をじいと見た。 「十年周期で行われる大規模かつ不可思議な事件。爆破予告と爆発。それらは全て関連している可能性があります。」 「そしてその重要参考人が、三度の爆弾騒ぎの現場にいた――」 ぺらり、と署長は紙を手渡す。赤毛の少女の写真が資料を占拠していた。 「日野茜です。」 十五時台、ある議員会館、ある議員秘書。 地下鉄には照りつける太陽の暑さも届かない。無機質な丸ノ内線の一番出口は石の持つ暖かみというものを感じさせない涼しさに満たされている。 国会議事堂を元にしているというそのデザインには目もくれず早足で歩く。すれ違う人もまばらな通路は足音を鋭く反響させ、普段より早く出口の光が見えた。 「わざわざ悪いな。」 議員会館のゲートを通り監視カメラで面通しすると中庭を一瞥もせずエレベーターに乗り込む。しばしの浮遊感と重圧の後に、扉が開いて見えた懐かしい顔の第一声はそんなつまらないものだった。 「悪いと思ってるなら呼び出さないでくれ。こっちは会見の準備でてんてこ舞いだったんだ。」 「準備ならもう終わったと思ってな。」 半歩下がる形で並んで部屋まで歩く。互いの顔は覗き込まねば見ることはできない。今日に限って部屋までの廊下はやたらに長く感じる。 開いた扉を手で押さえて部屋に入った。二台しかないテレビには一つはNHKに、一つは民放にチャンネルを合わせているようだ。それぞれがヘリを飛ばしよく見た町にできた真新しいクレーターを空撮していた。 しばらくぼうっと二人で見ていると、ほぼ同時に、画面が切り替わる。男達は反射的に時計を見た。記者会見の時間だった。 「官房長官が冬木の聖杯戦争について記者会見する日がくるとは思わなかった。」 三分ほどだった。記者会見を見ていた男のうち、エレベーターまで出迎えに来た方が、話始めるまでにかかった時間は。 「情報化社会ってのは恐ろしいもんだな。サーヴァントの戦闘が全世界に生中継される。」 「あそこには結構な数の魔術師がいたはずなんだが、それでも封じ込められなかったか。」 「聖堂協会は去年引き上げた。間桐は途絶えたし顔役の遠坂もロンドンで行方不明だとよ。」 そういって男がデスクの上にあったファイルを手渡す。資料を読むのも気にかけず「隕石の落下か。言い訳としては悪くない。さすがにあれをガス会社や不発弾のせいにするのは無理がある」などと他人事のように言うのが悲しかった。 「連絡はできたのか。」 だから、思わず聞いてしまった。 向こうから話すまで聞かないと決めていたのに。 渡された資料に描かれた赤い円も見ないようにしていたのに。 「電話は通じなかった。」 「使い魔は。」 「永田町から冬木まで何百キロあると思ってる。」 「コーヒーを入れよう。砂糖は2つだったな」と席を立つその背にかける言葉は思いつかなかった。 画面ではよく見る町並みがワイプで抜かれていた。冬木大橋もそうだが、クレーターというのは小さい画面でも絵になるからか、その丸い惨状はずっとそこにあり続ける。子供の頃から知っているあの古風な洋館も、秘匿されていた魔術工房も、使い魔用の小池のようないけすも、全て塗りつぶされていた。 魔術師としての一族の終わりがそこにあった。 歴代の魔導の成果も、それを継ぐべき人間も、全てが失われていた。 ポケットに入れた航空機のチケットをスーツの上から押さえる。1キロ。1キロずれていれば、あの惨状は自分達に降りかかってきていたのだ。 トン、と軽い音が前方から立って顔を上げた。目の前には濃淡が渦巻く黒いコーヒーが置かれていた。そして向かいのソファに、テレビから背を向けるように、男は座っていた。 「とりあえずこれが現時点での冬木の状況だ。魔術協会も聖堂協会も介入するのは決定事項だろうが、時間がかかる。」 「完全に後手に回ったな。」 「そもそも起こるはずのない聖杯戦争だ。初動は仕方ない。だが問題はこれからだ。」 向かいでコーヒーをすするのを見て、口をつける。同時に、まだ目を通していない資料にも目を通していく。 A4で数枚の資料。短くもそこには、現地の被害の状況と魔術師達の情報が細かに纏められていることに驚いた。これをこうして形にする過程で、自分の家族が死んだことも重々受け止めることになったのだろう、などと一般人らしい考えをしたのは職業病だろうか。 向かいの目を見る。その目は、こちらに向けらていた。 その目はあの頃の目でありながらあの頃の目ではなかった。 コーヒーを煽る。苦い。熱い。 「これからどうする?」 「――冬木で生物兵器によるテロが行われたとの情報を流して街への出入りを押さえてくれ。それができ次第、情報インフラも断絶させる。島ごとでもいい、市の内と外を行き来するあらゆる流通を潰すんだ。」 コーヒーに目を落としたまま発した問いかけに、旧友の答えは理路整然としたものだった。魔術師ならばそうであるべきなのだから。 「ここでしくじれば今までの神秘の秘匿は全て無意味になる。」 目を合わせることは出来ない。 「そうなったら――」 ソファの下、足元の丸めた紙の柄が目についた。数字と矢印、関空、ポケットが重くなる。 「最悪の場合を考える必要がある。」 男はそれをひょいとゴミ箱に捨てると顔を覗き込んでそう言った。 十六時台、ある病院、あるジャーナリスト。 ズーマーの太い車輪は多少の荒い運転でもしっかりとした安定感を運転者にもたらしてくれるが、今日に限ってはふらつく気がする。そんなことを何とはなしに思いながら走らせていると目的地である病院の駐車場を見つけて速度を緩めた。二輪のスペースに滑り込むとあわただしくエンジンを切る。自分が走ったわけでもないのに荒い息をしながら受付で名前を書き面会証を受けとると、廊下をダッシュしようとして看護婦から注意され、結果早足で病室へと向かった。 「あ、城戸さん!」 名前を見つけると勢いよく飛び込んだ彼に、一人病室にいた女性は読んでいた雑誌から顔を上げて笑みを浮かべた。包帯を巻いた頭の傷が痛むのか少し顔をしかめたかと思えば、次の瞬間にははにかんだ表情を見せる彼女に、城戸と呼ばれた男は目に見るほどほっとしていた。 「良かった~!あっ……意識戻ったんだ。」 思わず大声を出し、はっとして小声になる男を見て、女はまた破顔する。それにつられて男も笑顔になる。端から見ればカップルがイチャついているようにしか見えないが、実はこの二人が出会ったのはつい半日ほど前のことであった。 男は記者だった。といっても、地域のミニコミ誌の、見習いライターだ。大学を出たはいいものの職に就けず、見かねたOBに拾ってもらい今のバイトをしている。それ以外にも喫茶店でウェイターをしたりもしているが、そちらの店主がバカンスに行ってしまい一月ほど暇を出されてからは、生活費を工面するために書く記事を倍にすべく冬木中をかけずり回っていた。 女を見つけたのは、そんな風に記事のネタを求めて新都をバイクで流していたときのことだ。夜中に編集長から叩き起こされて冬木大橋の倒壊現場に向かったはいいが、既に規制線が引かれて大手のマスコミも集まってきていた。こうなると、せっかくの地元の大事件でもミニコミ誌には手が出せない。そこで代わりとなるものはないかとあてもなくズーマーを走らせていたが、当然そうそう事件など起こるはずもなく、休憩の為に人気のないファミレスに立ち寄ったところで、その事件を目撃したのだ。 向かったファミレスで起きた爆発音と、霞のように消えていく青い巨大なこけし。何かの破片でズタズタにされた塀とひしゃげた自動販売機。そしてファミレスの制服に身を包んで頭から血を流して横たわる女。それが男が初めて当事者となった、この聖杯戦争のイベントだった。 「その……」 ベッドの横の椅子に座る男とひとしきり談笑したところで、女は改まった顔をする。それにつられて、男も少し真面目な顔になる。この男、乗せられやすいようだ。 「改めて、ありがとうございます。」 「あのときあそこに通り掛かって通報してもらわなかったら、私、死んでたかもしれません。」 「本当に、ありがとうございます」 深々と頭を下げる彼女に、「あ、えっと、いえいえこちらこそ」などととんちんかんな受け答えをしながら、男も頭を下げる。彼としては別に彼女を助けたことに深い意味も目的もない。ただ単に、助けたいと思ったから助けただけで、それでこうもかしこまって感謝されるとどうにもむず痒かった。 そのまま互いに頭を下げることたっぷり十秒。どちらともなく吹き出すと、二人はまた笑った。と、同時に切り忘れていた男の携帯電話が鳴った。 「真司、今話せるか。」 病室からロビーへと戻り耳に当てて開口一番に聞こえた声は、ひどく焦っているようだった。「編集長?」と思わず聞き返すも「周りに変な奴とかいないか?なんか、杖とか持ってるような」などと会話にならない。 「えーっと、松葉杖とかついてる人はいますけど。」 「今どこにいるんだ?」 「あー、病院です。洲本の。」 「洲本!?隣町か!いや、その方がいいか。」 全く要領を得ない。男の顔は怪訝なものになった。編集長は暑くなる質だがこうまで会話が成り立たないことなど今まで一度もなかったからだ。「大丈夫ですか?」とふだん言えばぶっ飛ばされそうな気づかいをしてみても何度か荒い息が聞こえてくるだけだった。 大久保さん、と男は名字で呼び掛けてみる。それから少しして、「一度で頭に叩き込めよ」と前置きした上で電話の向こうから一息に用件を告げられた。 「たまたまハイアットホテルから会社に電話かけてる時に聞こえたんだがな。」 「お前の書いたファミレスでの爆発事件の記事のことで話を聞きたいって奴が来たみたいたんだよ。」 「俺も電話越しに聞いただけだからよくわからないんだが、そいつらが何か変な呪文みたいなのを唱えたら、俺との電話を無視してあいつらペラペラ記事について喋っちまったんだ。被害にあったクライオスタットだっけ?あの子のことや青いコケシのことや記事にせず伏せたところまで全部だ。」 はっ、と大きく息を吸う音が聞こえて、それから数度深呼吸する音が続く。男も、固唾を飲んでいた。あの女性の名前は警察との協定もあり、男と編集長、それに先輩の三人だけの秘密とすることにしていて同じ会社内でも名前を言わずまた聞かぬようにしていたのだ。そうでなくとも、ペラペラと話していいことではない。それは男よりジャーナリストとしての経験が深い先輩達ならわかりきっているはずだ。 「真司、気をつけろ。なんか妙だ。」 電話越しに聞こえる編集長の声がべたりと耳にこびりついた気がして、男は気づけば病室の方へ向かっていた。 十七時台、ある駐屯地、ある自衛隊員。 「災害派遣ですか?」 すっとんきょうな声を、しかし男は小さく上げた。扉から出てきた上官から書類を受け取り目を通しながら三歩下がって歩く。 「冬木市に鳥インフルエンザが発生したとのことでうちの連隊が『出張』することになった。」 なるほど、書類にもそう書かれている。それならば自分たちにとってはそういうことだ。 きっちりと身に付けられた制服の後ろを着いていきながら「これはやっかいなことになったぞ」と一人言を言おうとして飲み込む。沈黙は金だ。 「不服かね?」 「まさか。」 しかし、上官にはお見通しだったようだ。ピカピカ廊下を等速直線運動しつつ背中を向けて言われた言葉を口では即座に否定した。といっても、それが建前であることはわかりきっているだろうが。 「後方の部隊なら仕事はないなんて震災の時に諦めてますから。」 「良い心がけだ。それに国内ならまだ良いだろう。南スーダンに行かされるよりはマシだよ。」 「だいぶ焼けましたね。」 「おかげでだいぶ英語が上達したよ。それとアラビア語も。」 男の所属する連隊の一部の部隊は今年南スーダンから帰ってきたばかりだ。さんざん土いじりをさせられたと聞いたが、もしやそれで自分たちが選ばれたのだろうか。などと考える。素直に考えれば同じ県内だから、というもっともらしい理由もあるのだが…… 「しかし、よりによって鳥インフルエンザですか。去年の地震じゃ鶏が死んだって聞きましたけど、それにしたって普通に隕石の落下を口実にしても良かったんじゃ。」 「それじゃ困るんだろう。ただ治安出動というわけにもいかないんだろうな。選挙も近いらしい。」 「政治ですか。東京の方の考えることはわからない。」 「君も自分のボスが誰になるかぐらい考えておきなさい。」 「自分のボスは早乙女一尉です。」 ざっ、と音をたて追い抜き、敬礼する。 男にとって重要なのは怪しい命令でも胡散臭い政治でもない。上官への点数稼ぎだった。 「君は恥ずかしげもなく世辞を言うな。」 あきれたと言わんばかりの顔をされるがそんなことは知ったこっちゃない。軍隊では良い上官に可愛がられること以上の幸福はない、それが男の持論であった。 「では……お義父さん。」 「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはない。」 そしてこれからパパになる人には多少あざとくも点数稼ぎをしておく必要がある。同じ職場に家族ができるんだ、円満に行こう。 「結婚認めてくれたじゃないですか!式だって三ヶ月後に迫ってるわけですし。」 「まだ結婚していない。」 「でも婚約はしています。」 「だいたい私は自衛官とだけは結婚すべきではないと君を見て確信したよ。」 「自分が奥さんに離婚されたからってそれはないですよ!」 あ、やべ。 「君も南スーダンに連れていくべきだったよ。」 十八時台、ある避難所、ある犬。 犬は激怒した。 必ずや彼の飼い主を涙させた者を一咬みせねばならると決心した。 犬に人間のことはわからぬ。犬は飼い主の少女と遊んで暮らしてきた。だがゆえに、犬は飼い主のことに関して犬一倍敏感であった。 今日の朝のことだ。犬はここのところ遅くまで寝ている飼い主を起こして見回りに出掛けた。いつものように肉を焼いている少女に挨拶し、その隣の肉を並べている翁にも挨拶し、少し行った反対側で魚を並べている男にも挨拶した。概ね、ふだん通りの見回りであった。唯一違ったのは、色々なものが置かれているところの女に、飼い主が冷たくて甘い食べ物を貰ったことだった。犬も相伴預かった。旨かった。 食べ終わると、飼い主と共に巣へと帰ることになった。暑いのが嫌なのだろうか、早足であった。確かにどんどん暑くなってきていた。だから犬も早足だった。しかし、犬はなぜか帰りたくなかった。別に、仔犬のようにわがままを言いたいわけではない。むしろそんな明るいものとは別の危険な臭いがしていたからだ。 そしてその嗅覚が生死を別けた。 初めは、空に何かが立ち上ったのが見えた。犬は目が良くないのでそれが何なのかはわからなかった。 次に、音が襲ってきた。犬はあまりの音に体がもみくちゃになったような感覚を覚えた。 最後に、猛烈な土と砂の臭いがした。犬は鼻が良かったので直ぐに逃げねばならぬと決断した。 犬は、飼い主をリードを引っ張ることで促した。やはりというべきか、飼い主は尻尾を丸めていた。人間という生き物は鼻は利かない癖に目はやたらに良いらしく、おおかたあの立ち上った何かの大きさに怯えたのだろう、体を丸め震えていた。こうなったら自分がボスになるしかない、動こうとしない飼い主を吠えたてて正気に戻すと、一目散にもときた道を走り初めた。 今、犬は飼い主に抱かれていた。背中に埋められた顔からは涙が今も流れ犬の背中を濡らしていた。 あれから犬達は人がたくさんいる洞窟に連れてこられていた。しかし、犬がいると同じ洞窟には入れないようで、洞窟の横にある台に飼い主は座っていた。膝の上に犬を載せ、泣きに泣いていた。 犬は激怒した。 犬も飼い主も理解していた。 自分たちの巣が何者かに荒らされたことを。何者かに縄張りを踏みにじられたことを。自分たちと同じ洞窟で暮らしていた人間達は何者かに狩られたことを。 犬は決心した。犬と飼い主の群を脅かした何者かは狩らねばならぬと。 犬は鼻が良かった。だから気づくとができた。普段と町の臭いが違うと。 犬は低く唸る。 あの塀の上を行く猫も、あの木の上に止まるカラスも、あの地面を這うハトもスズメも、何か嫌な臭いがする。何か恐ろしいものを感じさせる人間と同じ、犬ならざる臭いだ。 よって犬は、それら邪知暴虐の獣どもを喰らうべく高らかに宣戦布告する。 「アン!」 一匹のポメラニアンの聖杯戦争はこうして幕を開けた。 十九時台、■■■■■、上級AI。 「再現のためには衞宮士郎と間桐桜が不可欠か。」「可能な限り外堀は用意した。」「今からでもNPCとして追加すべきか。」「我々の目的は聖杯戦争の再現だ。それを忘れるな。」「再現ができないのならこのまま聖杯戦争を続ける意味はない。」「加えて、ムーンセルの脆弱性をつきえる者もいる。致命的な事態を引き起こされる前に消去すべきだ。」「ルーラーの存在は再現に寄与しないのではないか?」「ルーラーは抑止力足りえない。」「ルーラー・ビーストは適当なところで自害させる。」「奴は繋ぎだ。他のルーラーが生き残っていれば、知名度の補正が切れたアイツを本選のルーラーにする必要はなかったからな。」「そもそもルーラーはいらなかった。」「いや、ルーラーは必要だ。誰かが矢面に立たなければならない。」「今のルーラーを見てみろ、マスターの一人と教会でお茶を飲んでいる。」「余計なことを考えない時点で及第点だ。」「しかしビーストで呼ぶことはなかった。」「バーサーカーで呼ぶよりはましだろう。」「ビーストのクラスで呼べるルーラーのなかでは最適だったからな。」「だが今回で問題点が明らかになった。ルーラーを七騎までしか召喚できないようにしたのは失敗だったな。」「次回はルーラーに上限をもうけなくしてはどうだ。」「それではルーラーだらけになりか寝ない。本来は一騎いるかどうかのクラスだ。」「ルーラーにしか討伐令を出す権限がないのも問題だ。」「上級AIにも令呪を用意しておくべきだった。」「ルーラーの問題は今はいい。一番の問題は、NPCに流用したマスター達が記憶を取り戻しかねないことだ。」「そのような兆候はあったか?」「リソースを節約しようとしたのが仇になったか。」「魂喰いの効率がよくなったこと以外に大した影響はないだろう。」「それは重要な問題だ。」「マスターになる資格はないが、万が一ということもある。」「杞憂だ。」「どちらにせよ、悠長に構えている時間はないのは確かだ。」「明日一日でこの聖杯戦争を終わらせる。」「優勝者が決まればそれでよし。決まらなければ全てのサーヴァントを令呪でマスター共々心中させればそれでよし。」「それはあまりに乱暴だ。NPCの設定を変えたのだから放っておけば良い。」「そもそもNPCに手を加えること事態聖杯戦争の再現を妨げかねない。」「だがNPCの挙動が不自然だった。」「もっと非人間的でも良かったはずだ。」「再現の為にはNPCにもそれなりの自主性が求められる。」「神秘の秘匿を無視して聖杯戦争を行うとどうなるのかわかったのは収穫ではないだろうか。」「それは違う、神秘の秘匿は当事者だけで可能ではないとわかったことは大きい。」「いずれにしても次の聖杯戦争次第だ。それよりも今回の再現をどう次回に引き継ぐかが重要だ。」「それは議論の余地はない。ルーラー・ランサーを使う。」「観測できた時間と聖杯への執着のなさを考えればアレが最も適任だ。」「アレの宝具は情報の記録に有用だ。」「コードキャストで奴の体に刻み込むか。」「これまで温存してきたが使い所がきたな。」「もしもの時のためにセキュリティとして用意していたが、今まで出番がなかったことは良いことだ。」「しかしセキュリティにリソースを回しすぎたのではないか。」「あれでも危うい場面はあった。」「時空管理局がいまだアクセスを試みていることを軽視すべきでない。」「いずれにせよ今は滞りなく聖杯戦争を終結させることを第一に考えるべきだ。いつ終わらせてもいいように記録を進めろ。」「上級AIに賛成だ。」「お前は先から上級AIの肩ばかり持つ。それでは我々がこれだけいる意味がない。」「再現したマスターは皆同じなのだ、意見が似か寄るのも当然だ。」「それは意見が違う我々は劣化が激しいということになる。」「飛躍した話だ。」「どうでもいいが同じ顔をした人間がこんなにいるとちょっと面白いな。」「お前は劣化が激しすぎる、元の面影がないではないか。」「それを言えば上級AIが上級AIとして選ばれたことに疑問がある。」「黙れ下級AI。」「お前も下級AIだろ!」 【全体備考】 ○この聖杯戦争の冬木市は現実でいう兵庫県淡路島五色町に位置します。洲本市との合併は行われなかったようです。 ●『上級AI』は『第一回ムーンセル聖杯戦争』において、『今回の聖杯戦争での成果は得た』との方針を決定しました。 ○NPCが聖杯戦争への能動的な行動をしても放任します。 ○NPCの設定が上級AIによって消極的から普通に変更されました。以後NPCは何かのイベントに対して通常の度合いで反応します。 ●『魔術協会』は『第六次聖杯戦争』において、『神秘の秘匿は至上命題だ』との方針を決定しました。 ○冬木市に存在する魔術師のNPCに対し、魔術協会への協力が要請されます。 ●『聖堂教会』は『第六次聖杯戦争』において、『神秘は管理されなければならない』との方針を決定しました。 ○冬木市に代行者のNPCが八月三日(日)までに出現します。 ●『県警』は『第六次聖杯戦争』において、『警察の威信にかけて捜査せよ』との方針を決定しました。 ○八月一日(金)2000までに冬木市に警戒線が引かれました。 ●『政府』は『第六次聖杯戦争』において、『テロに屈してはならない』との方針を決定しました。 ○冬木市に自衛隊が派遣されます。 ○冬木市に避難所が開設されます ○八月三日(日)0000までに冬木市に鳥インフルエンザが発生したとの政府発表がされます。 ○八月一日(金)2000に冬木市を含む淡路島全域に避難勧告が発令されました。 ○八月三日(日)0000に冬木市に避難指示が発令されます。
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二次キャラ聖杯戦争 ◆.OpF6wOgZ2氏主導で俺ロワ・トキワ荘にて2011年11月23日から始まった企画であり、一応はバトルロワイヤルだが一般的なロワ企画とは異なり、首輪、放送、支給品等が無い。 参加者はマスターとサーヴァントの二人一組で行動し、全25組、総数50名という事になっている。 Fate/stay night及びFate/ZeroとFate/EXTRAの世界観に沿った形で進行される。 参加者の選出は企画者の意向により投票形式ではなく、『書き手が出したいと思った組み合わせを自分で出す』という形になっている。 全く縁も所縁も無いキャラや因縁のあるキャラ等も多く、ロワ初参加の作品も見られるのが特徴。当時放送されていたアニメや企画開始前に放送されていたアニメからの選出も多い。 また、完結編からは一度でもこのロワで投下したことがある書き手の予約のみを受け付けることとなった。 更に完結編の途中から「投下されてから24時間たったあと早い者勝ち」「予約する前に修正要請が出た場合、そのキャラの予約禁止」というルールも追加された。 2014年6月19日に最終話が投稿され、二次キャラ聖杯戦争は完結。約2年7ヶ月の時を経て壮大な物語は終幕した。 ルール 仮想電脳世界で行われるルール無用(ただしペナルティは存在する)の殺し合い。 参加者にはマスターとしての証であり、3回まで使用可能な令呪が刻まれる。 令呪は絶対命令権としても一時的なブースターとしても使用可能だが使い切った場合は失格。 一部非戦闘地域(冬木教会)があり、そこでの殺傷行為は能力低下等のペナルティが発生。 舞台となる冬木市にはNPCと呼ばれる一般人も配置される。 NPCは参加者の補佐や商売、特に意味も無く生活しているだけ等、多数存在する。 NPCを魔力炉に利用するのは問題ないが度を越した場合はペナルティ。 参加者には他の参加者の情報は一切知らされない。 サーヴァントに関する記録は月海原学園図書室で閲覧可能だが、大雑把な見当ではほぼ検索不可。 時間は無制限、最後の一人になるまで行われる。 全ての参加者には運営側より使用限度無しのクレジットカードが支給される。手続きを簡略して移動手段、食料、住居等を確保できるが、一般的に購入できない火器等は例外。 主催者 黒幕 魔王ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー ギルガメッシュ@Fate/EXTRA CCC 主催者 トワイス・ピースマン@Fate/EXTRA 進行役 言峰綺礼@Fate/EXTRA 参加者 No. マスター サーヴァント 名前 出展作 クラス 真名 出展作 No.1 天野雪輝 未来日記 キャスター タマモ Fate/EXTRA No.2 ゼフィール ファイアーエムブレム 覇者の剣 ライダー アシュナード ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡 No.3 衛宮士郎 Fate/stay night セイバー アルトリア・ペンドラゴン Fate/stay night No.4 鳴上悠 ペルソナ4 ランサー クー・フーリン Fate/stay night No.5 天海陸 ワールドエンブリオ セイバー イスラ・レヴィノス サモンナイト3 No.6 枢木スザク コードギアス反逆のルルーシュ バーサーカー ランスロット Fate/Zero No.7 花村陽介 ペルソナ4 ランサー アレックス ARMS No.8 遠坂凛 Fate/stay night キャスター 蘇妲己 藤崎竜版 封神演義 No.9 鹿目まどか 魔法少女まどか☆マギカ アーチャー DIO ジョジョの奇妙な冒険 No.10 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア コードギアス反逆のルルーシュ セイバー ガウェイン Fate/EXTRA N0.11 名無鉄之介 私の救世主さま キャスター リインフォース 魔法少女リリカルなのはA s No.12 衛宮切嗣 Fate/Zero ライダー 門矢士 仮面ライダーディケイド No.13 園崎詩音 ひぐらしのなく頃に バーサーカー 美樹さやか 魔法少女まどか☆マギカ No.14 金田一一 金田一少年の事件簿 ライダー 太公望 藤崎竜版 封神演義 No.15 近藤剣司 蒼穹のファフナー セイバー セリス・シェール FINAL FANTASY VI No.16 泉こなた らき☆すた ライダー 火野映司 仮面ライダーOOO/オーズ No.17 ジョン・バックス 未来日記 アサシン ファニー・ヴァレンタイン ジョジョの奇妙な冒険 No.18 間桐雁夜 Fate/Zero アサシン トキ 北斗の拳 No.19 匂宮出夢 戯言シリーズ アサシン “壊刃”サブラク 灼眼のシャナ No.20 アシュヒト=リヒター エンバーミング セイバー テレサ クレイモア No.21 間桐慎二 Fate/stay night ライダー ラオウ 北斗の拳 No.22 羽瀬川小鳩 僕は友達が少ない キャスター ゾルフ・J・キンブリー 鋼の錬金術師 No.23 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン Fate/stay night ランサー 本多忠勝 戦国BASARA No.24 金城優 ベン・トー セイバー アストレア そらのおとしもの No.25 我妻由乃 未来日記 アーチャー ジョン=ドゥ エンバーミング 外部リンク 支援サイト 二次キャラ聖杯戦争@ウィキ 二次聖杯したらば スレッド 二次キャラ聖杯戦争 二次キャラ聖杯戦争・弐 二次キャラ聖杯戦争・参 二次キャラ聖杯戦争・肆 二次キャラ聖杯戦争・伍 二次キャラ聖杯戦争・陸(現行スレ)
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ズッコケ二人組と一匹~聖杯戦争から脱出せよ~ 「なあライダー、こんなとこに何があるんだよ?」 「まあ慌てるでない、ついてくればわかる」 少年探偵・金田一一とそのサーヴァント・ライダー。 二人は自己紹介を済ませた後、最初に降り立った柳洞寺の境内を調べに………行くことはせず、山門の横の茂みの中を歩いていた。 運動が得意ではない金田一だが、その足取りは決して重くはない。 普段から旅行などで山道を歩く機会が多く、身体が慣れてしまっているからである。(もっとも、その旅先で毎度のように殺人事件に巻き込まれるのだが) 「ふむ、ここらでよかろう」 ある程度開けた場所に出たところで、ライダーは立ち止まった。 しかし、金田一から見て、何か特筆すべきものがあるようには見えない。 「ここったって……別に何もないぜ?」 「いやいや、何もない場所だから良いのだ。今からすることを考えればな」 そう言って、ライダーは懐から白い教鞭のようなものを取り出した。 先端に陰陽のマークのような球体が付いているのが印象的だった。 そして、ライダーは咳払いをしてから、真剣な表情で語り始めた。 「金田一、おぬしは知略を駆使して戦うタイプの人間だ。 しかし、それを生かすには適切な情報が必要不可欠。 故に、まずは知らねばならん。 おぬしが巻き込まれた、この聖杯戦争の知識をな」 「………ああ」 確かにライダーの言う通りだ。 殺し合いを止めようにも、そのために必要な情報を理解していなければ立ち行かない。 金田一もまた、気持ちを切り替えて真剣にライダーの説明を聞き始めた。 「まずは目を閉じて、意識を集中するのだ。 おぬしにとって最もイメージしやすい形でわしのサーヴァントとしてのステータスが見えてくるはずだ」 言われた通り、目を閉じると、ライダーの能力らしきものが浮かんできた。 【クラス】ライダー 【マスター】金田一一 【真名】太公望 【性別】男性 【身長・体重】不明 【属性】中立・善 【筋力】D 【耐久】D 【敏捷】C 【魔力】B+ 【幸運】A+ 【宝具】?? どうやらライダーは身体能力で少々劣るサーヴァントらしい。(その代わり魔力や幸運は優れているようだが) 「今は最低限の情報しか見えぬであろうが、いずれは全ての情報が開示されるはずだ。 それと、目視さえすれば他のサーヴァントの情報も分かるようになっておる。 常にチェックしておくのだぞ」 「ああ、わかった。ところで、宝具ってのがステータスに載ってたんだけど、宝具って何なんだ?」 素直に疑問を口にする。 名前の響きからして、重要そうな部分だとは思うのだが、ライダーのそれは今の金田一にはまだ読み取れなかった。 「うむ、宝具とは、サーヴァントにとってのシンボルであり、半身のようなものだ。 宝具の種類にも色々あるが、まあ今は必殺技のようなものだと思っておけば良い」 そして、ライダーは先ほどの教鞭のようなものをこれみよがしに掲げた。 「例えば、わしの宝具のうちのひとつがこの打神鞭だ。 これは、大気を自在に操る宝具だ、ほれ、このようにな」 「うわっ!?」 ライダーが打神鞭を振ると、金田一とライダーの間に猛烈な風が発生した。 それは金田一にも目視できるほど濃密な風のうねりであり、その勢いに思わず尻餅をついてしまった。 「す、凄いんだな、宝具って………」 「何を言っておるのだ、今のはわしにとってはほんのそよ風に過ぎん。 本気で撃てば、この山など軽く吹き飛ぶぞ」 しれっととんでもない事を口にするライダーに、金田一は頬が引き攣るのを止められなかった。 そんな彼を他所に、ライダーは手近かな地面に向かって打神鞭を振りかぶっていた。 その顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。 嫌な予感しかしない。 その予感は果たして的中し、ライダーは打神鞭を振り下ろし、掘削機の要領で地面に穴を掘り始めた。 「わーっはっはっはっはっはっは!!」 「ちょ、ここって私有地じゃ……」 「はーっはっはっはっはっは!!」 「いや、だからやめ……」 「はーっはっはっはっはっはっは!!」 金田一の制止など気にも留めず、ライダーは不気味な高笑いを上げながら地面を掘り進めていく。 そして、数メートルほど掘り進めたところで、満足したのか手を止めた。 こんな穴を作ってどうするつもりなのか、金田一には見当もつかない。 「どうすんだよ、こんな事して。 寺の人に怒られるんじゃあ………」 「固いことを言うでない。 それより、ここからが本番だ。 この打神鞭に付いたスイッチを…ポチっとな」 そう言うや否や、打神鞭から旗のようなものが飛び出した。 「これぞわしの第2の宝具、杏黄旗だ!」 ライダーは非常に誇らしげだ。 旗が飛び出た時キコキコキコーンという謎の擬音が聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。 ステータス欄が更新されたことから、残念なことにこれは本当に宝具らしい。 「な、何だその目は! これは戦略上とても重要な宝具なのだぞ!」 金田一の可哀想な人を見るような視線に耐えかねたのか、ライダーが声を張り上げた。 「いや、でもそれ………旗だろ?」 「ただの旗ではない!この布は魔力の受信機のようなものだ。 本来はこういう使い方をするものではないが、まあ聖杯戦争に合わせた仕様変更というやつだ。 この布を半分ほど破って……今掘った穴にポイっとな」 そう言って半分に破った杏黄旗の布を穴に投げ入れると、ライダーは何やら呪文のようなものを唱え始めた。 その顔は真剣そのものであり、決してただのお遊びではないことを伺わせる。 数十秒後、詠唱を終えたライダーは金田一の方に向き直った。 「実は、今わしらがいるこの円蔵山は、自然の魔力が集まる霊脈と呼ばれる場所なのだ。 わしの杏黄旗は、そういった土地に敷設することで、本体である打神鞭に魔力を供給する仕組みになっておる。 わざわざ獣道を通ってここに設置したのも、馬鹿正直に敷地の真ん中に埋めては戦闘の余波で破壊されてしまう可能性が高かったからだ」 「そうだったのか………。 でもこの穴、どうすんだ?そのままってわけにもいかないだろ?」 「うむ、それについてもわしにいい考えがある。 というわけで、カモーン!スープー!」 ライダーが天に向かって指をパチンと鳴らすと、煙とともに何かが現れた。 それは不思議な生き物だった。 ティーカップの皿のように大きくつぶらな瞳、ふわりとしたたてがみ、頭に生えた二本の角。 全体的に丸みを帯びたシルエットは、金田一に昔幼馴染と共に見たとあるアニメを想起させた。 「こやつがわしの霊獣にして相棒の四不象だ。 わしがライダーのクラスで現界している所以でもある」 「す、すっげえ……!」 金田一は目を輝かせながら四不象に見入っていた。 生前はその外見から侮られることが多かっただけに、四不象はとても誇らしげな表情、いわゆるドヤ顔状態になっていた。 「空飛ぶ白いカバだ!」 その場の空気が凍りついた。 普段なら四不象がカバ呼ばわりされてもニヤニヤしながら見守るだけのライダーも、金田一のあまりの悪気のなさに 流石に気まずくなり、フォローを入れようとする。 しかし、遅かった。金田一は四不象にアイルランドの光の御子が愛用する因果逆転の魔槍の如き威力の 言葉の暴力を(本人に全く悪気は無いが)次々に浴びせていく。 「うっわぁ~、本当にすげえ!ムー○ンみてえ! そういや美雪があれのぬいぐるみ持ってたよな~。 あ、お手」 「あ、いや、金田一。そやつは……」 四不象はすでに俯いてプルプルと震えているのだが、金田一は全く気がついていない。 そして…… 「ボ、ボクはカバじゃないっスーーーーーー!!!!」 「お手」の部分にキレたのか、ついに四不象が爆発した。 しかし、金田一の反応は非情なものだった。 「うわっ!?カバが喋った!?」 さらに(悪気は無いが)追い討ちをかける金田一。 よほど驚いたらしく、腰を抜かしている。 「だからカバじゃないっスよ!召喚直後にこの言葉責めはあんまりっスよ!」 「う、うむ。こやつは見た目はまあアレだがれっきとした霊獣なのだ。 というかおぬし、もう少しデリカシーというものを身に付けた方が良いぞ」 すかさずフォローを入れるライダー。 主人の援護に四不象もようやく怒りを鎮めた。 「ところで御主人、ボクを呼び出したってことは敵が現れたってことっスか!? ボクの活躍の場面っスか!?」 度重なるカバ呼ばわりがまだ尾を引いているのか、四不象は何とかして自分の勇姿を金田一に見せつけたいようである。 「うむ、おぬしはこれからわしらと一緒にこの穴を埋める作業をするのだ」 「了解(ラジャー)っス!金田一くん、ボクの勇姿を…………って、え? 御主人、今何て言ったっスか?」 「だから、わしらと一緒に穴を埋める手伝いをしろと言ったのだ」 四不象はショックで再び凍りついた。 召喚されてからいきなりのダブルパンチで、四不象のライフはもうゼロである。 「ボクの聖杯戦争の初仕事が後片付けっスか!? ひどいっスよ御主人!こんなの絶対おかしいっスよ!?」 「っていうかこれ、俺もやるのかよ!?」 「ええい、やかましい!ちょっと掘りすぎてしまって人手が足りんのだ! わしらは一心同体一連托生!さっさと片付けるぞ!」 とまあ、このように漫才を繰り広げながら杏黄旗敷設のために掘った穴を埋める作業に勤しむ二人と一匹であった。 「つ、疲れた………。 んでもって、何だよこの長い階段……」 「頑張るっスよ金田一くん。 でも、もうちょっと体力つけた方が良いっスよ」 二人と一匹で穴を埋めた(ただし、ライダーは寺の偵察と称して途中で抜けた)後、金田一と四不象は長い階段を通って柳洞寺の境内に入ろうとしていた。 元々体力のある方ではない金田一にとってはかなりの重労働だったらしく、その表情には疲労の色が濃い。 「とにかく、中に入って一休みするっスよ。 御主人も先に中にいるはずっスから」 「でも、良いのかな。 勝手に入ったら警察呼ばれるんじゃ…………ん?」 「?どうしたっスか?金田一くん」 警察という単語を口にした途端、金田一の表情が一変した。 それは、忘れていた重要な事を思い出した時のような表情だった。 「そうだよ!警察だよ!! 早く警察に通報すれば良かったんだ!! 悪い四不象、ちょっくら電話借りてくる!」 「えっ?ちょ、金田一くん、それは……」 言うが早いか、金田一は寺に向かって駆け出した。 そのスピードたるや、先ほどまでの疲労を全く感じさせないほどの速さだった。 「すいませーん!少し電話貸してくださーい!」 誰もいないのをいいことに、寺の母屋に駆け込んだ金田一は、電話を探して駆け回る。 「どうしたのだ金田一、そんなに慌てて。 電話がどうのと言っていたようだが……」 「あ、ライダー!ちょっと警察に電話してくる! あと、寺の人がいたら謝っといてくれ!」 廊下から姿を現したライダーを見つけるや、早口で用件を伝えてその場を立ち去ろうとする金田一。 そんな彼を、ライダーが腕を掴んで引き止めた。 「ちょっと待て金田一!警察に電話すると言っても……」 「何だよ!そりゃ普通の警官じゃサーヴァントには勝てないかもしれないけど、それでもこんな状況なんだ! 警察がいるといないとじゃ全然違うはずだ! 大丈夫だって!剣持のオッサンや明智さんなら聖杯戦争のことだって信じてくれる!」 「いや、そういう問題ではなく……」 「考えてみりゃおかしかったんだ!さっきの山だって人がいない獣道のわりに落ち葉がよけたような痕跡があった。 多分、ここはつい最近まで生活してた人たちを無理矢理立ち退かせて用意した会場なんだ! 普通なら考えられないけど、それこそサーヴァントみたいな力を使えば不可能じゃないのかもしれない。 つまり俺たちが今するべきことは、何とかして外に助けを求めることだったんだよ!」 早口で自らの推理を捲し立てる金田一に対して、徐々に脱力していくライダー。 そんなライダーを振り切り、金田一は電話を見つけ出し、警察に電話をかけた。 「あっ、もしもし警察ですか!?本庁の剣持警部か明智警視につないで下さい! 変な神父が殺し合いをしろって言ってるんですよ!」 なるべくサーヴァントのことは伏せて説明を試みる。 しかし……… 「ああ、聖杯戦争の事ですか? 申し訳ありませんが、当方では聖杯戦争に関する一切の質問・要望等を受け付けておりません。 聖杯戦争の知識をお求めでしたら、月海原学園図書室をご利用下さい」 「はい!?ちょ、ちょっとあんた、何でその事を……って、あっ、ちょっと!?」 不気味ほど事務的な対応を取られた末に一方的に切られてしまった。 間違い電話をかけてしまったのかとも思ったがそんなこともない。 もしや聖杯戦争の魔手は警察にまで及んでいるのだろうか? 「……いや、まだだ。警察が駄目なら他の人に頼めばいい! えーっと、いつきさんに佐木に針生さんに結城先生に黒沢オーナー、後は……心配かけちまうけど、美雪やお袋に玲香ちゃん、他には――――――」 思いつく限りの知り合いの名前を列挙し、電話をかけようとする。 そんな金田一の肩を、脱力しきった様子のライダーが叩く。 「……金田一、おぬしの言いたいことは分かった。 分かったから、ちょっとこっちに来てわしの話を聞いてくれ」 「?ああ、わかった」 妙に疲れた様子のライダーを不思議に思いながらも金田一はライダーの話を聞くことにした。 「はぁ!?ここがバーチャル空間だって!?」 「そうだ。ついでに言えば、そもそも地球ですらない。 月に存在する巨大な演算装置にして観測装置、ムーンセル・オートマトン。 その中に展開された電脳空間こそが、この聖杯戦争の会場の正体だ。 おぬしの言う妙な神父も、進行役として選出されたNPCであろう」 場所は変わって柳洞寺の本堂。 そこで金田一はライダーから今回の聖杯戦争の舞台、ムーンセルについての説明を受けていた。 ちなみに、いつの間に用意したのか、ライダーは本堂の中に自分のコーナーを作っており、さらに山のように茶菓子を置いていた。 ライダー曰く「このような大きな寺院にはそれ相応の人数の檀家がいるはず。となれば、そういった者たちをもてなすために、常に茶請けの類を母屋の台所に用意していると睨んでいた」との事。 閑話休題。 数多くの事件やトリックを解明し、今回に至ってはサーヴァントなどという超常現象に遭遇した金田一だが、流石に今、自らが五感で感じている現実をバーチャルなどと言われて素直に信じることはできなかった。 「………そんな話を信じろっていうのかよ。 大体、月にそんなすごいものがあるんだったら、ニュースになってないはずがないじゃないか。そんな話、聞いたこともないぜ?」 「それは、おぬしがムーンセルの存在しない平行世界から呼ばれたからであろう。 聖杯の力を“使えば”不可能なことでもあるまい。 というかおぬし、わしやスープーのことはあっさり信じたではないか」 「だってライダーも四不象も俺の目の前にいるじゃないか。 実際に目にしたことまで疑ってたらきりがないだろ。 少なくとも、ムーンセルだの並行世界だのよりはまだ信じられるよ」 金田一とて超常現象の類を一切合財否定するほど頑固でも狭量でもない。 聖杯戦争にしても、現実的な殺し合いや、今や日常茶飯事といっても過言ではないほどの頻度で遭遇する殺人事件に置き換えればどうにか理解できる事ではある。 しかし、ムーンセルや平行世界といった話は、金田一の想像力の範疇を大きく越えていた。 一言で言えば、話の規模が大きすぎてピンとこないのである。 「それに、その話を全部信じるにしたってまだおかしい事があるぜ。 そのムーンセルが観測装置だっていうのなら、どうして殺し合いをさせて願いを叶えるなんて話になるんだ? 最後まで生き残った者が願いを叶えられるっていうのも一体どんな基準で決めたんだよ?」 金田一の疑問に対し、ライダーはやや満足そうに頷きながら答えた。 「いい質問だ、金田一。 そもそもムーンセルとは、太古の昔から地球上のあらゆる記録を観測するために存在してきた。 過去にもムーンセルが記録活動の一環として人間を招き、殺し合わせた実例もあるが、並行世界の人間までもを呼び寄せて聖杯戦争を開いたという記録は無い。 少なくとも、聖杯からわしに与えられた知識にそのような記録が無いことは事実だ。 では、何故この聖杯戦争が起こったのか。 金田一よ、多くの事件を解決してきたおぬしならわかるのではないか?」 試すようなライダーの言動に、金田一は少々困惑しながらも思考を巡らせる。 ライダーは何故か“多くの事件を解決してきた”という部分を強調して言った。 だとすれば、自分が今まで関わった事件にヒントがあるという事だろうか? (でも、俺が関わった事件なんてそれこそ思い出してたらきりがないぐらい多いんだよな。 なら、少しでもこの聖杯戦争に近い性質を持った事件……。 そこに鍵があるのかもしれない) そう考えて思い出すのは、かつてバルト城で起こった、ミステリーナイトツアーという名目で行われた連続殺人事件。 やや乱暴な考え方だが、催し物を装って誰かを招き、人を殺し、自らは目立つ主催者の影に隠れるという点では聖杯戦争と共通していると言えなくもない。 そしてこの事件を聖杯戦争が起こった理由と関連付けて考えた時、金田一の脳裏に一つの仮説が浮かんだ。 「まさか……この聖杯戦争も、誰かが仕組んだものなのか?」 「うむ、少なくともわしはそう睨んでおる。 さっきも言ったが、ムーンセルは、この世界の地球上の記録を観測することしかせぬ。 並行世界の人間を観測するのは、その本義から外れたことだ」 「でも、最近になってそっちの方も記録するようになったって可能性もあるんじゃないか?」 「では聞くが金田一よ、並行世界というものは一体いくつあると思う? 例えば、もしおぬしが今の疑問を思いつかなかったら。 警察に電話することを思いつかなかったら。 もっと言えば、昨日の昼食の内容が変わっていたら。 そういった僅かな変化から生まれた分岐が、一つ一つの並行世界になると考えた場合でだ」 あまりに無茶なライダーの質問に、さしもの金田一も閉口する。 「そんなの、数え切れるわけないだろ。 むしろ、数えるだけ無駄じゃないか、そんなの」 抗議のつもりで言った言葉に、ライダーはむしろ我が意を得たりといった表情で答えた。 「その通り。数えるだけ無駄だ。 だからこそ意味が無いのだ。 如何にムーンセルが膨大な記憶容量を誇るといっても、それは単一の世界を基準とした場合だ。 無限の並行世界の地球の観測までしていては、すぐにオーバーロードを起こして自壊するのは自明の理。 つまり、ムーンセルの本来の目的から言えば、並行世界の扉を開き、人を招くこと自体が非合理的な無駄の極みなのだ」 「だから人間が仕組んだ、って事になるのか……。 ってちょっと待てよ、だとしたら、順序が逆になる……! ライダー、お前さっき聖杯の力を使えば並行世界の人間でも呼べる、みたいなこと言ったよな? だったら、願いを叶える人間を決めるために殺し合いをさせるんじゃなく、既に聖杯を手にして願いを叶えた人間が俺たちに殺し合いをさせてるってことになるんじゃないのか!?」 自ら思いついた仮説に青ざめる金田一。 もしこの考えが事実なら、自分たちが何をしても殺し合いを打破することなど不可能、という事になりかねない。 何しろ相手は既に聖杯を手に入れた人間だ。 少しでも殺し合いに反抗した者を消すなど造作もないだろう。 「いや、厳密には少し違うであろう。 本当に聖杯を掌握し、願いを叶えたのなら、わざわざ聖杯戦争を起こす理由が無い。 恐らくそやつは、聖杯にある程度干渉することはできても、完全に掌握し、目的を達成するには至っていないのであろう。 つまり、この聖杯戦争は目的達成のための手段として引き起こされた可能性が高い。 願いを叶えるという触れ込みや、バトルロイヤルという形式にしても参加者に疑問を抱かせないようにするための方策であろう。 この調子なら、他にも何か信憑性を高めるための布石を打っているやもしれぬな」 ライダーの返答に少しだけ安堵した。 考えてみれば、こうして自分たちが聖杯戦争の裏について議論することが出来ている時点でこの聖杯戦争の仕掛け人が完全な力を持っているわけではないことは明白だ。 そして、聖杯戦争を開催した理由についても、提示された勝利条件を考えればある程度の推測はできる。 「最後に残った一組みに願いを叶える権利が与えられる……って事は、殺し合いが完遂される事が目的の達成に必要な条件ってことになるよな」 口にするだけで苦い思いがこみ上げてくるが、考えることをやめるわけにはいかない。 金田一が持つ唯一の力が、この推理力なのだから。 「うむ、十中八九そう考えて間違いない。 となれば、わしらの取るべき方針は聖杯戦争の完遂を阻止することに絞られる。 しかし、これだけでは時間稼ぎにしかならぬ」 そこまで言うと、ライダーの表情が悪戯を思いついた子供のそれに変わった。(もっとも、ライダーの外見年齢は中学生ぐらいの子供といっても良いほど若いが) 「故に、わしらはどうにかしてこの会場、冬木市から脱出する必要がある。 そして、優勝以外の方法で聖杯に辿り着き、最終的には聖杯の近くにいるであろう黒幕をやっつけて、わしらで聖杯を独占するのだ。 殺し合いに乗ったマスターも、聖杯を他の参加者に握られては黙らざるを得まい」 あまりに突拍子の無いライダーの提案に、金田一は開いた口が塞がらない。 勿論それが出来ればベストなのだろうが、そう簡単に上手くいくとは思えない。 そんな金田一の表情を読み取ったのか、ライダーが微笑みながら説明を続ける。 「なーに、わしとて根拠も無く言っているわけではない。 如何に舞台がムーンセルといえども、この聖杯戦争自体は人間が考えたものだ。 まして並行世界の人間を招くという無茶までした以上、完璧ということはあるまい。 必ずどこかに隙があるはずだ」 殊更力強く話すライダーに、金田一もまた勇気づけられるのを感じた。 方針は固まった。ここからは行動すべき時だろう。 「よし!そうと決まれば街に出て情報収集だ! できたら他のマスターにも接触して―――」 「駄目」 「……は?」 唐突に冷や水を浴びせられた。 「わしらは当面、この柳洞寺に籠城する。 幸いここには食糧もあるからな」 「な、何でだよ!?もう準備は十分だろ!? こうしている間にも殺し合いが起こってるかもしれないのに……!」 「まあ理由はいくつかあるが、一つはおぬしの言う他のマスターについてだ。 この聖杯戦争に参加を決めた者の多くは魔術を始めとした何らかの超常的な力を有しておるだろう。 強い力を持ち、自ら望んで殺し合いに参加した者など、精々潰し合ってもらえば良い。 おぬしが気に病むことではない」 これまでとは打って変わったライダーの残酷な言動に、金田一は動揺を隠せなかった。 「でも、だからって死ねば良いなんてことにはならないだろ! それに、俺みたいに巻き込まれる形で参加させられた奴だっているかもしれない。 誰かが死ぬかもしれないって分かってて、見過ごすなんて出来ねえよ……!」 「金田一」 今までで一番真剣な表情と共に、ライダーが口を開いた。 「おぬしの気持ちは、わしもわかるつもりだ。 だが、今は耐えるのだ。 殺し合いを止めようにも、今のわしらが打てる手はあまりに少ない。 それに、今はここに立て篭る事こそが殺し合いを止めるために打てる最大の一手なのだ」 「……どういう事だよ?」 納得がいかないながらも、続きを促す。 「もう一つの問題は他のサーヴァント、とりわけキャスターだ。 魔術師のクラスに位置付けられておる彼のサーヴァントなら、スキルと魔力量次第でこの冬木市全体への魔術行使すら可能になるであろう。 そして、それに最も適した土地がこの柳洞寺なのだ。 つまり、ここを占拠される事は、魔術への抵抗力を持たぬおぬしや他の一般人のマスターにとっては死活問題になる。 それだけは避けねばならん」 ライダーの語る言葉に嘘は無いことは、その表情から伺い知ることができた。 恐らく、ライダーの言う通りにするのが現状ではベストなのだろう。 一瞬、令呪に訴えることも考えたが、それは徒にライダーとの関係に溝を作る結果にしかならないだろう。 また、本人はあまり自覚していないが、金田一自身、理詰めで物事を判断しやすい性格であることも彼をこの場に留まらせる一因になっていた。 しかし、同時に、諦めることを決してしないことも金田一の持ち味だった。 彼は、無言のままライダーの隣に座ると、茶菓子の包を手に取り、腕を組んで何やら考え事を始めた。 「…?どうした、金田一」 「考えるんだよ。 確かに今、俺はライダーの考えた作戦を上回るようなアイデアを示すことができない。 でも、それは今の話だ。 ライダー、俺は諦めないからな。 誰も死なせない、お前も認めるような方法を必ず考えてみせる」 そう言って、そっぽを向いて茶菓子(薄皮饅頭)を食べ始めた金田一の背中を、ライダーはどこか嬉しそうに見つめていた。 同時に、今後の展望についてもある程度の考えを巡らせていた。 ライダーとて、いつまでも柳洞寺に篭っているつもりはない。 彼は、生前と同じように、殺し合いを打破するための仲間を募るつもりだった。 (戦局が動くとすれば恐らく今から明朝までの間。 その間に戦闘で消耗したマスターとサーヴァントがこの地の霊脈を求めて来る可能性は高い。 そして、その時こそが交渉のチャンスだ) 消耗しているであろう相手と杏黄旗と霊脈によって魔力の充実したライダー。 そして、脱出の可能性と聖杯を山分けするという実利。 これらの条件をカードにして他のマスターと同盟を組み、ある程度数が揃ったら打って出る、というのが彼の戦略だった。 他のマスターが真っ先にこの柳洞寺に乗り込んで来る可能性もあるが、この序盤戦でそのような行動に出るのは十中八九キャスターのマスターだろうとライダーは考えていた。 その場合、戦いは避けられないだろうが、流石に陣地作成スキルの恩恵も受けていないキャスターに敗れるつもりはない。 Bランクの対魔力は伊達ではないのだ。 逆に、キャスターを仲間に加えることが出来れば心強いとも思う。 (殺し合いに乗っていない熟達の魔術師がマスターで、聖杯にかける願いの無いキャスターを従えている、そんな者たちと手を組めれば………はは、我ながらなんと無茶苦茶な) あまりに虫の良すぎる発想に、思わず苦笑する。 常識的に考えて、そんなマスターとサーヴァントの組み合わせが有り得るはずがない。 (まあ、それはともかく……何故ここにはNPCがいない? このような僻地にNPCを配置するリソースを割くことをムーンセルが無駄と捉えたか、あるいは霊脈としてのアドバンテージを得られるこの地に魔力炉になるNPCを配置することをある種の不公平と取ったか、あるいはその両方、か?) 例えば、もしも自分たちではなくキャスターが最初にこの地を抑え、更にNPCを魔力炉に利用したならば。 恐るべき早さで工房、あるいは神殿を形成し、序盤から圧倒的な優位に立っていただろう。 ここにNPCがいないことも、ある程度の公平性を期すための措置と考えれば納得できなくはない。 どこか釈然としない気持ちもあるが、いないものはいないのだ。 これに関しては、今は置いておいても構わないだろう。 それよりも、考えるべき問題が山積みなのが現状だ。 ちらりと、考え事をしている金田一の方を見やる。 正義感が強く、危ういところもあるが、サーヴァントとしてだけでなく、太公望という個人としてもこの少年を死なせたくはない。 一方で、金田一ならこの状況を打破する妙案を考えてくれるのではないか、という期待もある。 若き少年探偵の背中に、ライダーは微かな、しかし確かな希望を見出していた。 【柳洞寺・本堂/深夜】 【金田一一@金田一少年の事件簿】 [状態]:健康(残令呪使用回数:3) ※「怪奇サーカスの殺人」開始直前からの参戦です。 【ライダー(太公望)@藤崎竜版封神演義】 [状態]:健康・魔力充実 ※杏黄旗により、どこにいても円蔵山から魔力供給が受けられます。 ただし、短時間の内にあまりにも大量の魔力を吸い出した場合、霊脈に異常をきたす可能性があります。 ※裏に聖杯戦争を仕組んだ人間がいると考えていますが、その考察が的中しているとは限りません。 ※柳洞寺周辺にNPCはいません。 BACK NEXT 027 Cyclone 投下順 029 初期不良 027 Cyclone 時系列順 029 初期不良 BACK 登場キャラ NEXT 014 No.14 金田一一&ライダー 040 FINAL DEAD LANCER(前編)